隠ぺい又は仮装(34)

 

 

 原告の反論です。

 

 

 

 

 

 

 

原告

 

 

 

1 被告の主張に対する認否

 

(一) 被告の主張二2(一)を争う。本件のように期限内申告書が提出されている事案では、隠ぺい、仮装の行為が期限内申告書提出前になされていることが必要と解すべきである。

 

(二) 被告の主張二2(二)(1)の事実を否認し、同(2)、(3)をいずれも争う。

(三) 被告の主張二2(三)の各事実を否認する。すなわち、

 

(1) 同(1)については、会計帳簿類を法廷に提出しないのは、これらの書類が訴外亡勝男の所得税法違反被疑事件で検察庁に押収され、還付を受けた時点で、いやな思い出を消すために全部廃棄処分にしたことによるものである。

 

 同人が所得を偽るため不正の経理処理をしたものではない。

 

 

(2) 同(2)については、訴外亡勝男が韓国籍であり本名では事務所を貸借できない。

そこで、従業員小谷の名義を借り、諸種の届出をしていたものである。不正目的で各種名義を偽っていたわけではない。

 

 

(3) 同(3)については、訴外亡勝男は、被告の部下職員から資料提出を要求された場合に、要求された資料は全部提出した。その余の会計帳簿は提出要求がなかったから提出しなかったまでで、会計帳簿を秘匿したものではない。また、訴外亡勝男は、過少に記載した利息収入の明細書を提出していない。

 

(四) 被告の主張二2(四)を争う。

 

 

 

反論

 

 

 

(一) 過少申告行為は、国税通則法六八条一項に定める重加算税賦課要件を充足しえないものというべきである。すなわち、

 

(1) 右条項は、旧法人税法(昭和二二年法律第二八号)四三条の二(昭和三七年法律第六七号による削除前のもの)が、「課税標準若しくは欠損金額又は法人税額の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい又は仮装し」と定めていたことに由来する。そして、右「法人税額の計算の基礎となるべき事実」とは、各税の税額控除額、重要物産の免税額、同族会社の加算税額の異動等による法人税額減少の基礎となる事実のことであると解されていた。

 

 したがって、国税通則法六八条一項にいう「税額等の計算の基礎となるべき事実」は、配当控除、住宅取得(等)特別控除、災害減免額、外国税額控除、、源泉徴収税額の税額控除項目を指す。

 

 とすれば、総所得金額を過少に記載した納税申告書を提出する行為は、税額控除項目を偽るわけではない。だから、右条項にいう「税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し」た場合には該当しない。

 

 

 なお、被告が援用する昭和五二年の最高裁判決の事案は、原始記録等の関係書類の備付けがなく、かつ、虚偽の申告書が提出されている。しかも、納税者において税務調査に非協力的であった等、積極的な所得隠ぺい行為があった。

 

 このような事案である。また、同じく被告が援用する昭和六三年の最高裁判決の事案は、納税者において、譲渡益を生じた建物等の売買の事実を隠ぺいしていた事案である。

 

 したがって、右両判決が、虚偽の過少申告行為自体をとらえて「隠ぺい又は仮装の行為」に該当するとしたものと断定することはできない。

 

(2) また、過少申告行為は、国税通則法六八条一項にいう課税標準等の計算の基礎となるべき事実の隠ぺい、仮装の行為にもあたらない。

 

 すなわち、各納税申告書の総所得金額欄に所得金額を記載すること自体は、たとえその所得金額が過少なものであっても、課税標準の数字を記載しただけである。課税標準の計算の基礎となるべき事実を記載した場合とは到底いえない。

 

(3) さらに、国税通則法六八条一項は、「隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出したとき」と定める。「基づき」との文言が用いられている以上、過少に記載した納税申告書の提出のみをもって隠ぺい又は仮装の行為と解することはできない。

 

(二) 以上によれば、訴外亡勝男による本件各納税申告書提出行為は、国税通則法六八条一項の定める要件を充足しない。したがって、本件各処分は違法であり取消すべきである。