隠ぺい又は仮装(33)

 

 

 

 

 本日からは、京都地方裁判所、平成 4年 3月23日判決、税務訴訟資料188号869頁について検討します。

 

 

 

 

 

一 原告(請求原因)

 

 

1 原告の亡夫訴外金勝男(以下「訴外亡勝男」という)は、サラリーマン金融業を営んでいた。昭和五三年分ないし同五五年分の所得税にかかる同人の確定申告、修正申告、重加算税賦課決定処分の経緯は別表甲1記載のとおりである(以下、右確定申告、及び、右各修正申告にかかる各納税申告書のうち、昭和五六年六月二三日受付と同五七年三月八日受付の各修正申告分を除いたものを「本件各納税申告書」と、右各重加算税賦課決定処分を「本件各処分」という)。

 

 

2(一) 訴外亡勝男は、昭和五七年四月一日、本件各処分につき、被告に対して異議を申立てた。

(二) 昭和六一年九月九日、訴外亡勝男が死亡した。原告以外の相続人は相続を放棄して、原告のみが訴外亡勝男を相続した。

(三) 被告は、(一)の異議申立てについてなんらの決定をしない。そこで、昭和六二年一二月一八日、原告は、国税不服審判所長に対して審査請求をした。

(四) 国税不服審判所長は、平成元年一月三一日付けをもって原告の右審査請求を棄却する旨裁決した。

 

 

3 本件各処分には以下のような違法がある。

(一) 国税通則法六八条一項は、収入除外や必要経費の過大算入等の不正経理に基づいて納税申告書が提出された場合に適用されるものである。

(二) 訴外亡勝男は、会計帳簿を全て正常に記録し、その記録は本来あるべきところに保管していた。同人は、課税標準の基礎となるべき事実を隠ペいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づいて本件各納税申告書を提出したわけではない。したがって、本件各処分は、国税通則法六八条一項の要件を欠く。

 

 

 

 

 

 よって、本件各処分は違法であるから取消すべきである。

 

 

 

 

 

 

二 被告

 

 

 

1 請求原因に対する認否

(一) 請求原因一1及び2の各事実を認める。

(二) 同3(一)を争う。国税通則法六八条一項が定める場合のうち、課税標準等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい、仮装する場合には、不正経理の存在が問題となる。しかし,ことさらな過少申告のように、税額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい、仮装する場合には、不正経理の存在は問題とはならない。

(三) 同(二)の事実を否認する。原告は、訴外亡勝男が正常に記録していたとする会計帳簿を一切提出していない。また、後記2(二)(1)ロで述べるように極めて巨額の過少申告がなされていたから、所得を偽るための不正な経理処理が推認される。 

 

 

 

 

 

2 主張

 

(一) 隠ぺい、仮装行為の時期

 重加算税制度の趣旨は、課税要件事実の隠ぺい又は仮装による過少申告を防止し、申告納税制度の信用を維持するというものである。この趣旨に照らせば、重加算税賦課の要件である「隠ペい又は仮装」(国税通則法六八条一項)の行為は、法定申告期限前になされているものである必要がない。

 

 

(二) 訴外亡勝男によることさらな過少申告行為と重加算税賦課要件の充足

(1) 訴外亡勝男は、国税通則法六八条一項にいう「税額等」のうち、当該所得にかかる「納付すべき税額」(同法一九条一項、二条六号ニ)の計算の基礎となるべき総所得金額(事業所得の金額)の大部分を、ことさらに過少に申告書に記載した。これにより、総所得金額の各増差部分の合計額を秘匿した内容虚偽の本件各納税申告書を提出した。すなわち、

 

イ 原告は、訴外亡勝男が本件係争各年度において会計帳簿を正確に記載していたと主張する。しかし、そうだとすれば、同人は会計帳簿を全く無視して本件各納税申告書を提出していたのである。

 

ロ 訴外亡勝男の本件係争各年分の所得税についての、昭和五七年三月八日の修正申告書とそれ以前の本件各納税申告書との総所得金額との較差は、いずれも極めて大きい。

 

ハ 訴外亡勝男は、(三)(3)で述べるとおり、被告による税務調査において、会計帳簿の秘匿や虚偽答弁を行なった。

 

 以上によれば、訴外亡勝男は、申告すべき所得金額がいくらであるかを把握していたにもかかわらず、事業の拡大を目的として税金はできるだけ少なくしようと考え、把握している所得金額と大差のある確定申告書を提出していたことが明らかである。

 

 

(2) 訴外亡勝男による右ことさらな過少申告行為は、「税額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい又は仮装し」た場合に該当し、国税通則法六八条一項の要件を充足する(最判昭和五二・一・二五税務訴訟資料九一号五四頁、同六三・一〇・二七税務訴訟資料一六六号三七〇頁)。なぜならば、ことさらな過少申告行為は、旧所得税法(昭和四〇年法律第三三号による改正前のもの)六九条一項にいう「詐欺その他不正の行為」に該当する(最判昭和四八・三・二〇刑集二七巻二号一三八頁)。そして、「詐欺その他不正の行為」の一態様として「隠ぺい又は仮装の行為」がある。

 

 ことさらな過少申告行為が「詐欺その他不正の行為」に該当して処罰されるほど可罰的違法性の大なるものであれば、同時に、「隠ぺい又は仮装」に該当して重加算税を課されても当然だからである。

 

 なお、訴外亡勝男は、本件係争各年分について所得税法違反で起訴され、同人が公判中に死亡したために公訴棄却となったが、関連事件である金村勝弘こと金勝弘(訴外亡勝男の実弟)に対する所得税法違反被告事件においては、実刑判決が確定している。

 

(3) 同条項にいう「基づき」との文言は、課税要件事実の隠ぺい又は仮装による過少申告を防止し申告納税制度の信用を維持せんとする重加算税制度の趣旨、目的に照らせば、納税者の当該年分の申告行為につき、「過少申告」という行為と、「隠ぺい又は仮装」という事実とが存在している場合には、重加算税を課することを意味する。

 

 

(三) 過少申告行為以外の隠ぺい又は仮装行為

 仮に、過少な納税申告書の提出自体が国税通則法六八条一項に該当しないとしても、訴外亡勝男は、以下のとおり、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい又は仮装していた。

 

(1) 原告は、訴外亡勝男が正常に記録していたとする会計帳簿を一切提出していない。また、前記2(二)(1)ロで述べたように極めて巨額の過少申告がなされていた。このことから、所得を偽るため不正の経理処理がなされていたことが推認される。

 

(2) 訴外亡勝男は、本件係争各年分の確定申告書を提出する以前から、全国に存在する貸借店舗において同人が経営するラッキーリースグループ一七店舗の各貸借人名義人を、同人名義ではなく、従業員である小谷国雄名義にしている。また、官公庁に対する届出、事業に関する預金名義も小谷国雄名義にしていた。

 

(3) 訴外亡勝男は、昭和五六年七月七日付け修正申告にかかる被告の税務調査において、昭和五四年分及び同五五年分の一三店舗の経費明細書を提出しただけで、その余の会計帳簿を秘匿して提出しなかった。また、本件係争各年分の利息収入に関し、昭和五五年分については過少に記載した明細書を提出した。同五三年分及び同五四年分については全く明らかにせず、同人の真実の所得の確認を妨げる行為を行なった。

 

(四) 本件係争各年分の重加算税額の計算の基礎となる税額の計算は、別表乙1ないし8のとおりであり、重加算税の割合は、三〇パーセントである。

 

 よって、本件各処分は、右により計算される額の重加算税を賦課するものであるから、いずれも適法である。