隠ぺい又は仮装(31)

 

 

 

 

 本日からは裁判所の判断を検討します。

 

 

 

 

 

 

 

本件株式等取引

 

 

 原告が、昭和五一年中に日興証券株式会社及び大和証券株式会社に委託して、債券及び別紙二記載(ただし、株式売買の注文日時を除く)の合計株数七〇二万株の株式の売買を行ったこと、並びに、原告の右各取引に係る収入金額が一五億八五九六万五一四七円、株式等の取得価額(手数料等の経費を含む)が一五億五一七七万六二八四円であることは、当事者間に争いがない。

 

 

〈証拠〉によれば、右取引のうち、日興証券株式会社に委託して行った株式の取引の注文日時は、次の取引を除き、別紙二記載のとおりであることが認められる。

 

 

 しかし、右取引のうち、番号五六番の取引については、右乙第七号証の二三によれば、午後二時四一分に指値について注文の変更が行われたことが認められる。番号六〇番の取引については、右乙第七号証の二八によれば、注文月日が七月八日又は七月九日であることが認められるものの、七月八日であることを認めるには足りない。番号一六一番の取引については、右乙第八号証の八七によれば、最初の注文は午前八時五九分に行われ、午後一時になって、売買株数及び指値について注文の変更が行われたものであることが認められる。

 

 

 なお、右取引のうち、番号三八番の取引は、右乙第八号証の一五によれば、注文伝票上、受注日が六月一七日と記入されているが、当該注文に基づく取引が六月一六日に成立したことについて、当事者間に争いがないので、右の受注日は、六月一六日の誤記であると認める。

 

 

 

 

 

取引の主体

 

 

 

 

 原告は、右取引は原告関連会社九社から原告が受託している右各社の金員を以て、右各社のために信託的に行ったもので、その所得は右九社に帰属する旨を主張し、本人尋問においてその旨を供述する。

 

 

〈証拠〉によれば、本件取引の財源は右九社の売上金等に由来するものであることが認められるが、しかし、原告は、右各社の実質的経営者であり、右各社の売上金等を必要な経費を控除したうえで、その手元に集中し、原告及び原告の妻個人の金と一括して、右各社ごとの帰属分を区分して把握することなく管理していたこと、

 

 

 右金員について、原告は、自由な用途に使用できる金員であるという認識を持ち、その認識のもとにこれを財源として本件取引を行ったほか、右金員から適宜原告の家族の生活費等の個人的支出を行い

 

 

 これらの支出の際には、右金員のうち、右各社ないし原告のいずれに帰属する部分につきいかなる金額が支出されたのかを特定すべき処置が何らとられていないこと、

 

 さらに、本件取引をすべて精算した後、原告は、本件株式等の売却金をあわせた原告管理の右金員を財源の一部に充てて、原告が役員を勤める東陽メンテナンス株式会社の名義で新宿区所在の土地を取得しているところ、

 

 同社の経理上、右取得費が原告個人からの借入金として処理されていることが認められる。

 

 

 右認定の事実を総合すれば、原告は、原告のもとに送金された右各社の売上金等を原告個人に帰属する金員であるという認識のもとに、

 

 これを一括して原告個人のため管理運用していたものというべきであり、本件取引も、原告が、右管理運用していた金員をもって、原告個人の計算でこれを行ったものと認めるのが相当である。原告の前記供述は採用することができない。

 

 

 したがって、原告の右主張は理由がなく、本件取引による所得は、原告に帰属するものと認めるべきである。