隠ぺい又は仮装(29)

 

 

 

 本日からは、東京地方裁判所 平成 1年 4月25日  判決、税務訴訟資料170号120頁について検討します。

 

 

 

 

 

被告 課税庁の答弁書からです。

 

 

(一)本件株式等取引

 

(1)原告は、自己の計算において、昭和五一年中に日興証券株式会社及び大和証券株式会社に委託して、別紙二記載の合計株数七〇二万株の株式及び債権の売買を行った。

 

 右売買にかかる収入金額は、一五億八五九六万五一四七円、株式等の取得価額(手数量等の経費を含む)は一五億五一七七万六二八四円であり、右売買により生じた所得の金額は三四一八万八八六三円である。

 

 

(2)なお、原告は、右取引は原告関連会社九社から受託を受けて行ったもので、その所得は右九社に帰属する旨を主張するが、以下のとおり失当である。

 

 

 

ア 右委託に係る契約書が作成された証拠はなく、右九社の法人税の確定申告書にも本件取引に係る損益についての記載はない。また、原告は、金銭の受託者として行うべき右各会社ごとの貸金の区分管理、収支計算、収支報告等を一切行っていない。その他右九社が原告に本件取引を委託したことをうかがわせるに足りる事実はない。

 

 

イ 原告は、本件取引において、原告名義、山村一恵名義を含む右九社以外の名義で取引口座を開設し、余人を介することなく、原告自身で売買の注文、金銭の授受、株券の受け渡し等のすべての取引手続を行っており、証券会社に対し、本件取引が右九社の取引である旨の告知をしたこともない。

 

 

ウ 原告は、本件更正等に対する異議申立の段階において、本件取引に係る損益が右九社に帰属するとの主張をしておらず、かえって、右九社及び原告に対する法人税法違反の嫌疑で検察官に取り調べを受けた際,本件取引を原告個人の立場で行ったと述べており、原告は本件取引を自己の取引であると認識していたことが認められる。

 

 

エ 本件取引は、原告が、右九社から集めた金員を自由に運用できる立場を利用し、原告自身の裁量、動機に基づいて行ったものであり、本件取引に係る損益は、原告に帰属するものである。 

 

 

 

 

(二)本件取引における株式の売買回数について

 

(1)所得税法九条一項一一号、所得税法施行令二六条一項、二項、(昭和六二年一〇月政令三五六号による改正前のもの)の規定により、有価証券の譲渡による所得は原則として課税されないが、その年中における株式又は出資の売買の回数が五〇回以上であり、かつ、その売買した株数又は口数の合計が二〇万以上であるときは、右取引は営利を目的とした継続的行為に該当するとされ、右取引による所得は事業所得又は雑所得として課税の対象となる。

 

 右形式的基準は、有価証券の取引が継続的であるか否かを判断する基準としてはかなり高いところに置かれており、右基準を満たさない場合でも諸般の状況に照らせば継続的取引と認定しうるのが通常であるので、納税者にとってはゆるやかな基準であり、有価証券の取引の実態に適合しない結果を招来せしめるものではない。そのうえ、納税者としては、有価証券の取引による所得が課税対象となるかどうかについて強い関心を持っているところ、右基準に該当するかどうかを容易に判断することができて課税所得になるかどうかを予測できるから、当該納税者にとっても便利である。したがって、右形式的基準は合理的なものであるということができる。

 

 

 

 

(2)株式売買の回数の算定基準について

 一般の投資家が有価証券市場を利用して証券業者に委託して有価証券の売買取引を行う場合、売買の回数は、投資家が証券業者に対して行う委託契約の回数により数えるべきである。

 

 そして、投資家と証券業者との間の委託契約の回数は、銘柄の種類、値段、株数、売付けと買付けの別、注文期間等を要素とする注文の回数に還元することができる。

 

 株価は時々刻々変動し、場の気配によって投資家は株式の売買を決意するものであって、注文の日時が異なれば、売買の価格は異なり、投資家の取引の意思も異なるから、注文の日時を異にする委託契約は、別個の委託契約とみるべきである。

 

 さらに、同一日時に複数の銘柄の株式の売買を一括して注文した場合は、売付け又は買付けという売買の態様において同じであるから、一つの委託契約とみるべきであるが、同一日時に売付けと買付けの注文をした場合には、両者は、経済的事象として全く異なり投資家の意思内容が異なるから、別個の委託契約とみるべきである。

 

 なお、注文後、前記要素の変更が行われた場合には、当該変更のときに別個の委託契約がされたとみるべきである。

 

 

 

(3)本件取引における株式売買の回数について

 右基準に基づき、本件取引における原告の株式売買の回数を計算すると、別紙二記載のとおり一五六回となる(なお、日興証券株式会社における取引のうち、番号二二番の取引は、証拠上、注文時刻が不明のため、原告に有利なように、午後二時四二分に注文が行われたものとして計算した。)。

 右によれば、原告は、昭和五一年中に前記法定の基準を超える回数及び株数の株式の売買を行ったことになる。

 

 

(4)原告は本件取引を行うについて、特別の人的、物的設備を有していなかった。

 したがって、本件取引は所得税法上の事業には該当せず、本件取引による所得は、所得税の課税の対象となる雑所得に該当する。

 

 

 

 

(三)したがって、右(一)(1)の本件取引により生じた所得三四一八万八八六三円は原告の昭和五一年分の雑所得となる。

 

 

 

 

3 本件重加算税賦課決定の根拠及び適法性について

 原告は、本件更正に係る雑所得の計算の基礎となった有価証券の取引を、他人名義、架空名義等を使用して行い、その取引によって得た所得を隠ぺいして確定申告書を提出したものである。

 

 これは、国税通則法六八条一項にいう国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいしたところに基づき納税申告書を提出していたときに該当する。

 

 

 そこで、同条項につき、本件における隠ぺいに係る所得金額(雑所得の金額三四一八万八八六三円)に対応して納付すべき税額二〇九二万八〇〇〇円(端数処理を行ったもの)に一〇〇分の三〇の割合を乗じて重加算税の額を計算すると、その額は六二七万八四〇〇円となるから、その範囲内にある本件重加算税賦課決定は適法である。