隠ぺい又は仮装(28)

 

 

 本日は裁判所の判断を検討します。

 

 

 

 

 

 

       理   由

 

 

一、請求原因一、二の各事実および昭和三六年二月中に原告が訴外小林光夫ほか二名から合計金六二〇万円を受領したことは当事者間に争いがない。

 

 

二、ところが、被告は右金員を原告が本件山林立木の売却代金として受領したものであると主張し、原告はこれを借入金として受領したものであると抗争するので、まずこの点につき判断する。

 

 成立に争いのない乙第一六号証の一、二、証人谷口昌良の証言により成立の認められる乙第一三号証の一、第一四号証、同小林光夫の証言により成立の認められる乙第一号証の二、同中島道夫の証言により成立の認められる乙第八号証、同浅田和男の証言により成立の認められる乙第二〇ないし第二二号証および右各証人の証言を合わせ考えると、

 

 訴外谷口権平は昭和三六年二月二七日口頭契約にて原告から本件山林立木を買受け、同日その代金一九〇万円を現金九〇万円と満期同年四月二七日とする金額金一〇〇万円の約束手形により支払つたこと、

 

 訴外小林光夫は同月中旬頃から原告と本件山林立木の買受交渉をした結果、同月二七日に売買契約が成立し、同日その代金一九〇万円を中国銀行宛額面金九〇万円の小切手と満期同年四月二七日金額金一〇〇万円の約束手形にて支払つたこと、

 

 訴外中島道夫は同月二五日に原告から本件山林立木を買受け、同月二七日その代金二四〇万円を現金五〇万円、額面金七〇万円の小切手および満期同年四月二七日金額金一二〇万円の約束手形にて支払つていること、

 

 右訴外人らは以上の金員をいずれも原告から借用方を申込まれて交付したものではないこと等が認められ、右認定に反する証人小山好史、同服部好郎、同文谷孝(第一、二回)同小川竜一の各証言および原告代表者本人尋問の結果は前掲各証拠と対比し信用することができない。

 

 そして、成立に争いない甲第一号証の一、二(金銭出納帳)同第三号証の一、二(原告会社借入金勘定帳)、同第九号証の一、二(同)、同第一〇号証の一、二(原告会社山林勘定帳)、証人文谷孝(第一、二回)、同服部好郎、同小川竜一の各証言(後記信用しない部分を除く)によれば、

 

 原告会社は昭和三六年二月末の決算期を控え資金繰りが非常に困難となり、資金調達のため本件山林立木の処分にふみきつたこと、前記金六二〇万円受領後帳簿担当責任者の文谷孝が記帳係に指示して、帳簿上右入金を同年二月二八日前記訴外人らからの短期借入金として記帳し、同年五月三一日に帳簿上右立木代金をもつて右借入金を決済したように振替記帳していることが認められるが、右各証言によるも右立木処分にあたり原告側から借入金ないしは前渡金とする旨の申出がなされたことを認めることができず、原告から右訴外人らに借用証を差入れあるいは利息を支払つたような事実を認めるに由ないから、右記帳は原告の一方的かつ内部的な経理上の処理にすぎないものというほかなく、これらの記載をもつて前記認定事実を左右することはできない。また前記原告側証人は右立木処分につき取締役会の承認を経ていないためかような経理をした旨供述するけれども、原告会社の同族会社的な性格から考えれば右供述をそのまま信用することはできないし、他に右認定をくつがえし前記入金を借入金と認めるに足りる証拠はない。

 

 

 右認定事実によれば、原告は右合計金六二〇万円を本件山林立木売却代金として昭和三五年事業年度の所得に計上、申告すべきであつて、被告のなしたこれが権利確定時期については何の誤りがないといわねばならない。

 

 この点に関する短期借入金の返済方法として売買予約をした旨の原告主張は会社内部処理的な帳簿上の操作に藉口したものとして当を得ない。もつとも前掲各証拠によれば、原告が受領した右各約束手形の支払期日は約六〇日後のものであり、前記訴外人らが買受けに係る本件山林立木の伐採に本格的に着手したのは同年三月に入つてからであることが認められるが、税法上のいわゆる権利確定主義の原則からしてこれが事実をもつて前認定の結論が左右されるものではない。また右記帳方法はかつて税務署員の指導によるものとする原告の主張も、その前提として該受領金員が借入金のような性質をもつものでないことから採択するに由ない。

 

 

三、つぎに、法人税法第二五条第八項第三号および同法第四三条の二所定の仮装なる文言は、その文理上原告主張の如き通謀を要件とするものとは解されず、また前認定の事実によれば、原告が右立木取引に関し前示のような帳簿処理をしたのは期末の資金繰りの必要上次年度の所得とするためにしたものと推認するほかないから、原告は取引の一部につき会社帳簿に作為的に不実記載をなし、これに基づき申告をなしているものというべきである。

 

 これを錯誤による記載とは認められないばかりでなく、右立木取引による所得金額はその年度の他の総所得金額に匹敵するようなものであるから、仮装、隠ペいの意図に基づく不実の記帳として該帳簿書類の全体の記載について真実性、信頼性を疑われても止むを得ないものといわなければならない。

 

 原告は当該仮装記載部分のほかにも不実記載とみられるものが加わつて全体として簿記会計の誠実性、信頼性をそこなう場合でなければ青色申告書提出承認の取消はできないと主張するが、該承認取消の要件は帳簿書類の記載内容それ自体により企業の営業成績の真実を知りうる程度の誠実かつ信頼に価する記載があるかどうかを基準として判定すべきであり、本件不実記載の態様程度によれば右取消の要件を充たしているものというべきである。そして、かかる不実記載の存在とそれに基づく申告の事実をもつて前記重加算税賦課の要件を充足しているものといい得るところ、これらの点についての原告の他の主張もすべて理由がなく,被告のした青色申告書提出承認の取消処分および重加算税決定処分に違法は認められない。

 

 

 

 

 

 

 なお、原告は、本件青色申告承認取消および重加算税決定は著しく不当苛酷であり、裁量権の濫用である旨主張するので案ずるに、前認定の事実によれば、原告は本件山林立木の売却代金を次年度の所得には計上しており、これが取引、収入の事実を全く隠ペいするものではないことが認められ、これが仮装の記帳をなすに至つた前記経緯を考慮すれば、原告の立場からは所得税額の更正決定のほかに青色申告承認取消および重加算税決定の処分を受けることは、いささかきびしすぎる制裁であると考えられないでもない。

 

 しかしながら、もともと備付帳簿が青色申告制度の趣旨に副うような信頼性、真実性を備えているかどうかの判断は、確定申告のときを基準としてなされるべきであるうえ、本件不実記載の態様程度は前述のとおりであつて必ずしも軽度なものでないから、脱漏した所得を次年度の所得に計上したこと等の事実をもつて、原告の備付帳簿が確定申告のときに青色申告制度の本旨にかなう程度の真実性と信頼性を備えていたものと認めることはできないし、

 

 およそ租税一般とりわけ法人税秩序の維持には期間損益計算の原則が厳守されるべきことが肝要であり、これを逸脱するにおいては青色申告制度の所期の目的が果せないばかりか、法人税制の根底を揺すものといわねばならず、法はかかる違反者に対し青色申告承認取消処分のみならず、行政上の秩序罰である重加算税の賦課徴収をもつて臨む旨を規定しているものであることを考え合わせば被告の右各処分を著しく苛酷または裁量権の濫用としてこれを取消し得る程度に不当な処分とは到底認めることはできない。