隠ぺい又は仮装(26)

 

 

 本日からは、岡山地方裁判所  昭和42年 1月19日 判決、税務訴訟資料47号49頁について検討します。

 

 

 

 

 

 

 

(請求の原因)

 

 

 

一、原告は、被告から青色申告書をもつて確定申告することの承認を得ていたもので、昭和三六年四月被告に対し同三五年度分(同三五年三月一日から翌三六年二月二八日に至る事業年度)の所得金額につき別表(一)、(二)記載のとおりの申告を青色申告書によつてなした。これに対し、被告は同三七年四月三〇日付で同表(一)、(二)記載のとおりの更正決定および重加算税賦課決定と右三五年度以降の青色申告書提出承認を取消す旨の処分をした。

 

 そこで、原告は同三七年五月二五日被告に対し右各処分に対する再調査の請求をなしたところ、訴外広島国税局長において、右再調査請求を原告の同意を得て審査請求に切替えたうえ、同三八年二月一九日これが請求をすべて棄却する旨の裁決をした。

 

 

二、被告の右各処分の理由は、原告が昭和三六年二月末頃訴外小林光夫ほか二名から受領した金六二〇万円は、立木売却代金であり昭和三五年度の所得として計上すべきものであるのを、原告がこれを同年度の短期借入金として処理申告したのは、事実を仮装、隠ペいしたものであるとするものである。

 

 

三、しかしながら、被告の前記各処分は次のような瑕疵があり、違法であるから取消されるべきである。

 

(一) 原告が昭和三五年二月中に訴外小林光夫ほか二名から金六二〇万円を受領したのは、立木売買代金としてではなく、同月末の決算期を控えた原告会社の資金繰りのための短期借入金である。

 

 これを立木売買代金とするならば原告の昭和三六年度の所得に計上すべきものであつて、被告は右契約成立ないし権利確定の時期を誤つている。すなわち、原告会社は立木の売却を重要財産の処分として取締役会の承認を経てなすことになつていたが、経理担当の専務取締役服部好郎において、資金調達に急を要したため独断で、従来取引のあつた前記訴外人らから右金員(現金三〇〇万円と支払期日が同年四月二八日の額面金三二〇万円の手形)を短期借入し、

 

 これが返済方法として同年二月二八日に同訴外人らと岡山県真庭郡落合町大字西河内字奥山(以下本件山林という)の立木の売買予約をなしたものであつて、右売買につき後日取締役会の承認が得られなかつた場合は、右予約を解約して、別途にこれを返済することになつていた。

 

 したがつて、原告は同月中に右立木を引渡したことはなく、右訴外人らの右立木に対する入山伐採は右取締役会の承認のあつた同年三月以降に行われている。

 

 原告が右金員受入れを帳簿上仮受金或は前受金として記帳処理しなかつたのは、かつて昭和三三年一〇月頃に岡山税務署員より右のような場合は短期借入金として処理するようにとの指示を受け、爾来原告はかかる場合商業帳簿類には短期借入金と掲載しているものである。

 

 

 そして、原告は、同三六年三月六日頃の取締役会で右立木売買予約の承認がなされたので、右借入金をその代金として支払に充当した同年五月三〇日に売買が成立したものとして、

 

 伝票・帳簿類にその旨の記載をなしているものであるから、これが立木代金の所得は同三六年度分に計上すべき筋合のものである。

 

 この点被告は税法上の収入金額である「収入すべき金額」の確定時期が、法律上これを行使することができるようになつたときであることにつき誤謬を犯しているものといわねばならない。

 

(二) 仮りに右立木売却代金を昭和三五年度分の所得として計上すべきとしても、原告は右のような事情のもとにその権利確定時期を誤認する等の錯誤に基き、

 

 これを同三六年度分に計上したのであつて、右取引を隠ペいしたり、計算を仮装したものではないから、これが隠ペい、仮装を理由とする青色申告承認取消についての法人税法(昭和三五年法律九五号、以下同じ)第二五条第八項および重加算税賦課についての同法第四三条の二の各規定には該当しない。

 

 すなわち、右各規定の仮装の文言は相手方との通謀を要する趣旨と解するところ原告は本件山林立木につき訴外小林光夫、同中島道夫、同谷口権平の三名のいずれとも売買を貸借とする如き通謀をしたことはなく

 

 もしこれが通謀を要しない趣旨としても、少くとも真実と異る表示をする故意を要するが、

 

 原告にはこれら不実記載の故意はなかつたものである。

 

 このことは前記の事情、特に昭和三五年度分の法人税につき被告の調査が行われる以前の同三六年五月三〇日に、原告が本件山林立木の売買代金受入れの事実を記帳していることからも明らかである。

 

 また青色申告承認取消には法規上仮装を要件とするほか、当該帳簿書類の記載事項の全体についての真実性を疑うに足りる不実の記載があることを要件としている。このことは当該帳簿書類の仮装部分のみでなく、他にこれを加重する不実等の記載が多数あるような事柄が加わらなくては右記載事項の全体についての真実性を疑うには足りないものと解されるところ、原告の本件山林立木取引関係を記載した帳簿類によれば、これが全体についてその真実性を疑うに足りるものとは到底考えられない。

 

 

(三) 以上の主張が認められないとしても、所得金額の更正決定はともかくとして、裁量処分である被告の青色申告承認取消および重加算税賦課決定は、前記事情、時にその仮装とされる日時が原告の事業年度末の前日であり、かつそれによる益金が次年度において正確に計上されていることを考慮すれば、甚だ不当苛酷な処分であり、また裁量権限を濫用した処分でもある。