隠ぺい又は仮装(23)

 

 

 

 本日からは福島地方裁判所、昭和46年 4月26日判決、税務訴訟資料62号598頁について検討します。

 

 

 

 

 

被告の主張

 

 

一、被告は、原告が昭和三四年八月一日から昭和三五年七月三一日までの事業年度以降法人税の確定申告書を提出しなかつたので調査したところ、原告は、昭和三七年四月八日、福島興産有限会社(以下単に「福島興産」という。同年中に商号を有限会社ホテル聚楽(以下単に「(有)ホテル聚楽」という。)と変更し、さらに昭和四〇年に株式会社ホテル聚楽(以下単に「(株)ホテル聚楽」という。)と組織変更し現在に至る。)に対し、原告会社の営業資産一切を譲渡するとともに、営業権を金一、五〇〇万円で譲渡し、旅館業を廃止したことが判明した。

 

 

二、被告が、右営業権の譲渡価額を金一、五〇〇万円と認定した理由は次のとおりである。

 

1 営業権は、法律上の権利ではなく、営業に固有の事実関係であつて、財産的価値のあるものをいい、営業上の秘訣、得意先、創業の年代、名声、仕入先、経営の組織、地理的関係などから構成され、営業の一部を構成するものとして必ず営業とともに譲渡または移転される。営業を構成する資産としては、固定資産、流動資産等があるが、営業の譲渡または合併の場合に、これらの個別的な資産の価額の合計額以上にその対価が定められたときは、その超過額が営業権の価額であり、それは企業が設立された創業当初の試練を経て過失がなく、若干年経過すれば外部的には社会的認識を得、内部的にも経営組織が完備し、新規に開業するものに比べて数段優越した立場となることにより発生する。

 

 

2 ところで、営業権は税法上の固有の概念ではないので、法人税法上、その意義および性格について特に規定せず、商法や会計学上の営業権の概念をそのまま用いており、そして、その償却額を損金に算入することができ(法人税法施行規則(昭和三七年政令第四一八号による改正前のもの。以下同じ。)第二一条第一項第八号)、その償却額を計算する場合、耐用年数を一〇年(同規則第二一条の二第一項、固定資産の耐用年数等に関する大蔵省令(昭和三六年大蔵省令第八二号による改正前のもの。以下同じ。)第一条、別表九)とし、残存価額を零として定額法により算出する(同規則第二一条の三第一項、第四項)ことになつていることからみて、税法上も営業権の資産性が認められている。ただ、税法上の営業権は客観的価値を問題にするのであるから、商法や会計学の立場と異なり、有償取得または合併の場合常に資産性が認められるわけではなく、その取得の態様に応じて営業権の取得と認められる場合はじめて資産性が認められるのである。

 

 

3 原告の場合、旅館としては飯坂におけるしにせであり、立地条件もよく、長い間かち得た信用も大であり、しかも(有)ホテル聚楽が原告の資産一切を包括的に取得し、原告と同一場所で同一営業を開始し、直ちに収益をあげている事実が存するので、これらの事実に徴すると、原告において営業権が発生していたことは明らかであつて、原告はこれを有償で譲渡したものである。

 

 

4 原告会社における昭和三七年四月八日ごろの企業全体の価額は金七、〇〇〇万円ないし金七、二〇〇万円であつたところ、原告は、同日、福島興産に対し別紙物件目録一の1、2、二の1ないし3、三、四記載の各資産および什器備品を、それぞれ別表記載の価額(土地、建物、賃借権の譲渡価額については被告が更正した)で譲渡したが、その合計額は金五三、五〇七、七二九円であるから、これを前記企業全体の価額から控除した残額の金一六、四九二、二七一円ないし金一八、四九二、二七一円が原告の営業権の価額であるが、本件の場合、それよりも内輪の金一、五〇〇万円で取引されたけれども、取引価額は売手と買手との経済力等によつて左右されることおよび原告同様温泉地である会津若松市東山地区の営業権の譲渡の実例に比し、決して高額でないこと等を斟酌すると、右営業権の取引価額は適正妥当である。

 

 

三、右営業権の譲渡契約の効力は、本件事業年度中に発生したものであるから、本件事業年度の法人税を計算するうえにおいて、これを益金に計上すべきであるが、原告が営業を譲渡した際、不良資産として引き受けられなかつた車両については除却損とするのが相当であり、その帳簿価額は金一、一〇七、九九四円であるから、これを営業権の譲渡価額から控除した金一三、八九二、〇〇六円が本件事業年度の益金となる。そして、原告は、以前から旅館営業を休止し、本件事業年度中営業上の収入支出がなく、また、青色申告書を提出しない法人でもあるので、法人税法(昭和三八年法律第六七号による改正前のもの。以下同じ。)第九条第五項により本件事業年度の所得計算上損金に算入すべきものは存しない。そこで、被告は国税通則法第二五条により、原告の本件事業年度における所得金額を金一三、八九二、〇〇六円と認定し、これに基づき法人税、重加算税、無申告加算税の各税額を算出し、原告に賦課決定したものである。すなわち、

 

 

1 法人税法第一七条第一項第一号により、所得金額のうち年二〇〇万円以下の金額については一〇〇分の三三、年二〇〇万円を超える金額については一〇〇分の三八の税率を各乗じて原告の本件事業年度における法人税額を金五、一七八、九六〇円と算出した。

 

 

2 原告は、正当な理由がないのに確定申告書を提出しなかつたから、その全額について無申告加算税の課税対象となるところ、このうち金五〇〇万円については原告代理者中山辰郎が(有)ホテル聚楽から営業譲渡代金として受領したのに、これを原告の収益として計上しないで隠ぺいし、原告代表者中山辰郎がこれを費消したのであるから、重加算税を納付しなければならないが、国税通則法第六八条第二項によりその税額を金六六五、〇〇〇円と算出し、その余の金額については同法第六六条第一項により無申告加算税を金三二七、八〇〇円と算出した。

 

 

四、源泉徴収にかかる所得税の賦課決定をしたのは次のとおりである。

 

 原告は、昭和三七年中に前記営業権譲渡代金の一部金五〇〇万円(内金三〇〇万円については(有)ホテル聚楽が中山辰郎に対し貸し付けたものとして経理しているが、その実質は営業権の譲渡代金の一部である。)を受領したのに、これを原告の収入として計上せず、原告の代表者中山辰郎において不当に流用したことは前述のとおりであるが、これは原告がいつたん収入として受け入れたものを右中山辰郎に賞与として支給したのと同一の効果があるので、被告は、これを原告が中山辰郎に賞与として支給したものと認定したのであり、そして、原告は、昭和三七年中に右金五〇〇万円以外に他に給与の支払いをしていない。

 

 

 ところで、原告は、中山辰郎に賞与を支給したのであるから、その際、所得税法(昭和三八年法律第六六号による改正前のもの以下同じ。)第三八条により、中山辰郎から所得税を徴収し、これを納付しなければならないのにこれをしなかつたので、被告は同法第四三条によりこれを原告から徴収することとし、同法第四〇条により年末調整を行ない、その所得税額を金一、五四九、一二〇円と算出し、国税通則法第三六条により、昭和三九年九月九日付で原告に対し納税の告知をし、さらに、同法第六七条第一項により不納付加算税を金一五四、九〇〇円と算出し、合わせて賦課決定した。

 

 

五、以上のとおり、原告の本件事業年度における法人税および源泉徴収にかかる所得税につき、被告のした賦課決定等の各処分には何ら違法はない。