隠ぺい又は仮装(22)

 

 

 

 引き続き判示事項を検討します。

 

 

 

 

 

 

 

原告の本件各預金の存在に関する認識

 

 

 右の認定事実によれば、原告は、佐久税務署に赴く前の平成四年七月一六日の時点において、被相続人名義の本件各預金が存在すること、その預金を本件相続税の申告に際し相続財産として計上しなければ違法であるとの認識を有しており、本件期限後申告の前の平成四年八月二日の時点において、本件各預金の正確な金額を知ったことが認められる。

 

 

 

 

「隠ぺい又は仮装」の有無

 

 

 

 原告が本件各預金に関し「隠ぺい又は仮装」した事実の有無について検討する。

 

 被告は、原告が平成四年七月二二日に佐久税務署を訪れた際、既に本件各預金が存在してこれが相続財産に当たることの認識を有していながら、本件各預金の存在を秘匿したことや、本件期限後申告に際して、本件各預金を記載していない申告書を提出したことに照らし、殊更に過少申告をしたものとして「隠ぺい」の事実があった旨主張するところ、前記のように、

 

 

「隠ぺい又は仮装」に該当する事実があったというためには、単なる認識ある過少申告行為では足りず、「殊更の過少申告」が行われたことが必要である。

 

 

1 そこで、まず、原告が、佐久税務署で本件各預金の存在を税務署員に告げなかったことについてみると、そもそも原告が佐久税務署を訪れたのは、当時はいまだ原告の本件相続に関する相続税の申告がなされていない状況であり、相続財産についての情報が得られないことから他の納税者の申告の内容を確認したり、無申告加算税について問い合わせをし、場合によっては押印を追完して申告期限内に申告をしたことにしてもらったりすることを目的としたものであって、

 

申告のように納税義務者側から納税額等を明らかにし、あるいは調査のように税務当局側からの納税額等に関する質問に答えることを目的としたものではないこと、

 

また、その態様においても、単に原告の方から本件各預金の存在を話題にしなかったというに止まり、税務署側から本件各預金の存否を尋ねられてこれを否定したというのではないこと、

 

さらに、後述のとおり、このころから本件期限後申告までの間、原告は一貫して本件各預金を計上した正しい申告をするための行動をしていたことをも併せ考えると、

 

原告が本件各預金の存在を税務署員に告げなかったことをもって、本件各預金を相続財産から除外してこれを隠ぺいする意図を持って隠ぺい行為をしたと評価することはできず、他に原告が税務署員との面談において隠ぺい行為に出たことを認めるに足りる証拠はない。

 

 

2 次に、原告が本件各預金を計上しないで本件期限後申告をした点についてみると、前認定のとおり、原告は、他の兄弟姉妹との間で遺産分割を巡って対立していたことから、本件相続に関する申告手続を本間に依頼したいと考えていたが、本間から申告に要する相続財産に関する情報を得られないとして断られたため、やむを得ず、他の兄弟姉妹が依頼していた星に委任したところ、結局は原告についてのみ無申告となった申告書の控えを見て、本件各預金が計上されていないことを知った。

 

原告は、本間から、本件各預金を計上しなければ違法であると聞かされ、これを計上した正しい申告をしようと考え、星のみならず本間に対しても正しい申告をしてくれるよう依頼したが、星はこれを実行せず、本間からは、資料がないなどの理由で断られ、無申告の状態を解消するためにとりあえず申告書の控えに押印をして提出しておき、後日星が修正申告をするのを待つ方がいいでしょうとの本間のアドバイスに従い、提出手続だけを本間に依頼して本件期限後申告をしたものである。

 

このように、原告は、本件各預金を計上した正しい申告をする意思を有していたのに、

 

そのための資料が存在しないことなどのため、後日修正申告をするつもりでやむを得ず本件期限後申告をしたものであって、

 

本件期限後申告の際に隠ぺいの意図があり、殊更に過小な金額を申告することにより課税を免れようとしたの事実を認めることはできない。

 

 

3 被告は、原告質問てん末書(乙第一八号証)において、

 

原告が「商銀の預金を星さんから受け取った申告書に加算して申告すると税金が払えないというような理由から、とりあえず、すでに納まっている分の申告書を提出したのです。」

 

「お金がなかったので申告できませんでした。」と供述し、

 

また、「私は、星さんから受け取った孝一(被相続人のこと)の申告書だけを申告すればよいと思っていたからです。預金があるということはわかっていたが商銀の預金を財産に加えて申告するということは全然考えていませんでした。」と供述している点を指摘する。

 

 しかしながら、後者については、右供述部分の二丁後に

 

「星会計事務所に平成四年九月頃行き、そのおり孝一の申告には不備があるので後で申告をしなおすという話を星さんがしました」と、

 

三丁後に「私としては、不備なことで孝一の申告をしなおすということは商銀の預金が申告になっていないということではないかと思っていました」との供述部分があり、

 

前者については、右の供述部分の直前に「星さんに後で申告しなおすというようなことを聞いていたことと」との供述部分があることが認められることに加え、

 

本間が、当裁判所において、「原告は、本件期限後申告に至るまでの間、一貫して、本件各預金を計上した正しい申告をしたいとの意思を有していたし、そのための手続をしてくれるよう自分に依頼した」

 

旨明白に証言していることからすると、被告の指摘する供述部分から原告に隠ぺい行為があったと認定するには証拠不十分と言わざるを得ない。

 

 

4 その他、本件全証拠を検討してみても、原告が隠ぺい又は仮装行為をしたとの事実を認めることはできない。

 

 

 

 

 

結論

 

 

 以上の次第で、本件処分は国税通則法六八条一項所定の「隠ぺい又は仮装」の要件を欠く違法な処分でありこれを取り消すべきであるから、原告の請求を認容する。