隠ぺい又は仮装(21)

 

 

 

 先週に引き続き裁判所の判断等について検討します。

 

 

 

 

 

 

 

 

本件における認定事実

 

 

 

 証拠(甲第一七号証ないし第二二号証、乙第一号証ないし第一〇号証、第一四号証ないし第二二号証、証人松本守幸、高木義徳及び本間美邦の各証言並びに原告本人尋問の結果)によれば以下の事実が認められる。

 

 

1 被相続人死亡の翌日である平成三年一一月二一日、御代田の本宅で被相続人の通夜が行われた際、原告の長男である善徳は、被相続人の知人であった神田から、「院長(被相続人)から大きな額の定期預金証書を預かっているがどうしたらよいか。」などと相談を受け、長野商銀の被相続人名義の額面一四億七六七二万四六七四円及び二四八一万六五五四円の各定期預金証書を見せられた。

 

 右証書を確認した善徳は、「母に相談してみてはどうか」などと言ったが、馬吉の財産の管理について詳しい直枝が管理すべきだと思い、「直枝おばさんに預けた方がいいのではないか」と話した。神田は、各定期預金証書を直枝に手渡した後、原告に対し、直枝に「チョウギン」の預金証書を渡してきたけれど、預かり証はもらえなかった旨、また、「チョウギン」の預金証書は二枚あり、金額は一枚は一〇数億円でもう一枚は数億円で、合わせて一六億円程度である旨説明した。

 

 

2 平成三年一二月一五日、原告は、自宅において、神田から、「チョウギン」にある被相続人名義の預金は被相続人がミサワホームに森泉山を売却した際の売却代金一〇〇億円を原資をしていること、被相続人が「チョウギン」に預金する際に直枝及び一枝が反対し、八十二銀行に預金するように強く要望していたとの説明を受けた。

 

 

3 平成三年一二月二〇日ころ、原告は、森泉山の売却についてミサワホームとの交渉の窓口となり、また、契約内容や資金の流れも熟知していた忠雄から、ミサワホームとの契約の内容や資金の流れについての説明を受け、被相続人が森泉山の売買によりミサワホームから平成三年六月及び同年九月の二回に分けて合計七四億円を受け取ったが、そのうち三三億円を住友銀行の借入金返済に、一五億円を利息の支払いにそれぞれ充て、一六億円を「チョウギン」に、五億円を八十二銀行にそれぞれ預金し、残りの五億円は被相続人が何に使ったかわからない旨の説明を受けた。

 

 

4 平成四年一月ころ、敏孝は、一六億円の預金を八十二銀行に移すことを直枝や一枝に提案し、原告にもその旨打診したところ、原告は、相続人四人で均等に分けないのであれば同意できないと言われ、右の預金を八十二銀行に移す話は立ち消えになった。

 

 

5 原告は、本件相続の遺産分割を巡って他の三人の兄弟姉妹と対立していたため、三人が相続税の申告を委任している星に依頼する訳にいかず、長年馬吉の顧問をしていた本間に本件相続税の申告を依頼したが、相続に関する資料が全て直枝や星の手元にあることを理由に、本間から依頼を断られた。そこで原告は、申告納期限最終日である平成四年五月二〇日の直前、星に申告を依頼したが、案に相違して星が提出した申告書には原告の押印がなく、原告についてだけ申告期間を徒過する結果となった。

 

 

6 平成四年七月一六日、原告は、星から、本件各預金を計上していない共同相続人の申告書の写しを受領し、遺産分割内容や詳細については不完全な部分があるので修正申告をする予定だとの説明を受け、その足で本間の事務所に赴いた。

 

 原告は、本間に対し、右申告書の控えを見せながら、本件各預金が相続財産として計上されていないことについて相談したところ、本間は、「ミサワホームとの契約がどうあれ、被相続人個人の名義で実際に預金が存在している以上は申告しなければならない。今回の相続税の申告については問題がある。」「これは大変なことになる。」と言い、共同相続人の申告には重大な誤りがあることを原告に指摘するとともに、原告の押印がされておらず申告がされていない点について、一度税務署に行って話を聞いてみるようアドバイスした。

 

 

7 平成四年七月一七日、原告は、「チョウギン」とは長野商銀のことであると考え、長野商銀に対し、平成三年一一月二〇日現在の被相続人名義の預金残高証明書の発行を依頼した。

 

 

8 平成四年七月二二日、原告は善徳とともに佐久税務署を訪れ、同税務署職員の松本守幸と面談し、他の三人の相続人が既に提出した申告書の内容を教えてくれるよう申入れたが、守秘義務を理由にこれを拒否され、原告については現在無申告の状態であり申告書に押印を追加することはできないこと、原告分を含む本件相続税が既に全額納付されていて、原告の無申告の状態が続けば将来納付した者に返還せざるを得なくなることの説明を受け、他の相続人とよく話し合って申告をするように言われた。その際、原告は、本件各預金を話題にすることはなかった。

 

 

9 平成四年八月二日、原告は、長野商銀から送付された残高証明書を入手し、本件各預金の名義人が被相続人であること及びその正確な金額を知った。

 

 

10 その後原告は、本間に対し、本件各預金を相続財産に計上した正しい申告書の提出手続を依頼したが、資斜がないことや星が正しい修正申告をすると言っていることを理由に断られ、平成四年九月一一日には星にも連絡を取り正しい修正申告を早急にしてくれるよう求めたが、星はよくわからないところがあるので、調査を待って修正申告する旨述べるばかりであった。思い余った原告は、平成四年一〇月一日、再び本間に相談した結果、とりあえず星の作成した申告書の控えに押印して提出しておき、星が正しい修正申告するのを待つ方がいいでしょうとアドバイスを受け、本間に依頼して本件期限後申告書を提出した。

 

 

11 平成四年一二月の馬吉の三回忌の際、敏孝が本件預金を八十二銀行に移したい旨述べたが、原告は、税金の関係が確定するまでは預金に手を付けるべきではないと述べた。

 

 

12 その後も星は修正申告をする気配がなかったため、原告は、平成五年一月ころ、本間に対し、本件各預金の存在を佐久税務署に通告してくれるよう依頼したが、本間は、星が修正申告をすると言っているのでそれを待つべきであるとして、これを断った。

 

 

13 その直後の平成五年一月二六日に税務調査が入り、原告は平成六年四月二八日に修正申告を行った。