隠ぺい又は仮装(19)

 

 

 

 裁判所の判断を検討します。

 

 

 

 

 

 

 

原告の主張等についての判断

 

 

 右認定に反し、原告は、売掛帳及び預金通帳は森藤税理士に提出していたとして、これをことさら秘匿したことはない旨主張し、甲第一号証(原告本人の陳述書)及び原告本人尋問の結果中にはこれに沿う部分がある。

 

 しかし、もし売掛帳及び預金通帳を森藤税理士に提出していたのであれば、これらの書類は、原告の掛売りによる売上げを示すものであるから、森藤税理士は、従来から行われていた、推計四八〇万円の掛売り分の収入を計上するのではなく、売掛帳及び預金通帳に基づき、その実績を確定申告書に計上していたはずである。

 

 ところが、右のように本件調査に至るまで推計による収入額を計上していたのは、正に原告が売掛帳及び預金通帳を森藤税理士に提出していなかったからであるというべきであり、原告から売掛帳及び預金通帳の提出を受けたことはない旨の森藤税理士が申述していること(丙第四号証)もこれを裏付ける。

 

 これらに照らし、また、税理士が依頼者のために納税義務を免れるべく不当な行為の片棒を担ぐ等といった特段の証拠も見あたらないので、

 

 その事情をも併せると、原告の前記供述部分はたやすく採用することができない。

 

 

 

 

 

 

 本件重加処分の要件

 

 

(一)一般論

 ところで、通則法六八条一項は、過少申告をした納税者が、その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺい又は仮装し、その隠ぺい又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、その納税者に対して重加算税を課すこととしている。この重加算税の制度は、納税者が過少申告をするについて隠ぺい又は仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を科すことによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。

 

 

 したがって、重加算税を課すためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠ぺい又は仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別に隠ぺい又は仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要するものというべきである。

 

 

 しかし、右の重加算税制度の趣旨にかんがみれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からも窺い得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には、重加算税の賦課要件が満たされたものというべきである(最高裁判所第二小法廷平成七年四月二八日判決・民集四九巻四号一一九三頁)。

 

 

 そして、納税者が自己の委任している税理士に帳簿等を秘匿する行為も右の場合に含まれると解するのが相当である。

 

 

 なぜならば、税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において納税義務の適正な実現を図ることを使命とするものであり(税理士法一条)、

 

 納税者が課税標準等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい又は仮装していることを知ったときは、その是正をするよう助言する義務を負うものであって(同法四一条の三)、

 

 納税者から正しい帳簿等が提出されればそれに従い正しく税務申告をしたはずであるから、

 

 納税者がこのような職責を負う税理士に提出すべき帳簿等を提出しないことは、重加算税の賦課要件を検討するに当たって、無視し得ないからである。

 

 

 

 

 

事業所得

 

 そこで、(一)の法理を本件についてみるに、前記認定の事実によれば、原告は、青色申告の承認を受けた者としての税法上の義務に違反し、スナック鏡の売上金額に関する唯一の原始資料である売上伝票を破棄し、爾後の整理簿及び売掛帳の記帳内容の検証を著しく困難にしたのみならず、顧問税理士である森藤税理士から、毎年決算の際に、あらかじめ収入金額や必要経費に係るすべての書類を持参するよう指示されていたにもかかわらず、本件確定申告に際し、同税理士に、提出した書類が原告の事業所得に係るすべてのものであり、売上金額は整理簿に記入した以外にはない旨の虚偽の申立てを行い、掛売り分の売上げを記載した売掛帳とその回収口座にしていた預金通帳を秘匿し、森藤税理士をして過少な所得金額による確定申告書を作成させ、右確定申告書を被告署長に提出させていたのであり、これにより原告が隠ぺいした収入金額は、合計一九三〇万一七五三円(平成三年分一三八九万二八九五円、平成四年分五四〇万八八五八円)にも上るのであるから、原告は、当初から平成三年分及び四年分の事業所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からも窺い得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたものというべきである。

 そして、確定申告から修正申告に至る事業所得に係る収入金額ベースの増額分は、掛売分の計上漏れであり、それは、すべて仮装又は隠ぺい行為によるものということができる。

 

 

不動産所得

 

 また、前記認定の事実のとおり、原告は、豊ビル一階部分を賃借し、これをキリンに転貸するに際し、まず、昭和五二年に設立されて以来全くの休眠会社であった大幸商事の名義で賃借することにし、次いで、大幸商事名義でキリンに転貸し、キリンからの賃料を三和銀行川崎支店の原告名義の普通預金口座に振り込ませて、これを自己の借入金の返済等に充てていたにもかかわらず、これによる収入を森藤税理士に告げずに秘匿していたものであり、しかもこれにより原告が得ていた賃料収入は、キリンからの賃料収入月額五四万〇七五〇円(消費税込み)から家主に支払う賃料月額三五万円を控除した差額一九万〇七五〇円であり、その額は年間二二八万九〇〇〇円にも上ること(丙第九号証、原告本人尋問の結果)に照らせば、原告は、大幸商事の名義を利用して、当初から平成三年分及び四年分の不動産所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からも窺い得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたものというべきである。

 そして、確定申告から修正申告に至る不動産所得に係る収入金額ベースの増額分は、本件転貸料の計上漏れであり、それは、すべて仮装又は隠ぺい行為によるものということができる。

 

 

 

本件重加処分の適否

 

 以上によれば、原告の本件各係争年分の収入過少申告の原因となった行為は、通則法六八条一項の重加算税の賦課要件を満たすものというべきであるから、それから経費等を控除した所得金額及びそれに対応する納税者が過少となったことの原因は、少なくとも収入金額を右のようにして過少としたことにあるということができる。そうすると、右の過少収入金額から過少所得金額及び過少納税額を算出し、これに一〇〇分の三五を乗じて得られる重加算税額は、右の過少とした収入金額の大きさからして、本件重加処分における重加算税額を上回るものと推認されるし、原告もその算出過程を積極的に争点とする趣旨ではないと認められる。したがって、算出される重加算税額の範囲内でされた本件重加処分は適法である。