隠ぺい又は仮装(17)

 

 

 

 第1審の判断を検討します。

 

 

 

 

 

 

 

 本件貸金利息等を雑所得として申告しなかったことについて、通則法六八条一項の定める重加算税の課税要件が存在するか否かについて

 

 

1 通則法六八条が規定する重加算税の制度は、納税者が過少申告をするについて隠ぺい、仮装という不正手段を用いた場合に、過少申告加算税より重い行政上の制裁を科すことによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。

 したがって、重加算税を課すためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠ぺい、仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要するものであるが、右の重加算制度の趣旨からすれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがいうる特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には、重加算税の賦課要件が満たされるものと解するのが相当である(最高裁平成六年(行ツ)第二一五号同七年四月二八日第二小法廷判決・民集四九巻四号一一九三頁)。

 

 

2 前記に説示したとおり、本件係争各年分の本件貸金利息等の金額は雑所得として課税の対象となるものであるから、原告は本件係争各年分の所得税の申告に当たり、本件貸金利息等の金額を雑所得として計上して申告すべきものであったところ、原告は、本件貸金利息等に係る所得を計上することなく過少申告をしたものである。

 

 

 ところで、前記のとおり、原告は、質屋業を営む傍ら、第三者に対する金銭の貸付けを継続的に行ってきており、また、自ら本件貸付けに関する資料を保存していたものであり、その経歴、経験及び本件貸付けに関する資料の保存状況及びその内容に照らしてみれば、原告は、金銭の貸付けに関する法律知識を十分に有し、したがってまた、本件当初貸金に係る消費貸借契約及びその後の各準消費貸借契約に基づき本件貸金利息等が発生し、本件貸金利息等について収入すべき権利が確定していることを認識していたものと認められる。

 

 

 しかるに、原告は、殊更に金銭の貸付け関係の記載を一切記載せず、本件貸金利息等に係る所得を除外した虚偽の内容の申告書を作成して、これを被告に提出したものである。

 

 

また、証拠によれば、本件の税務調査に際しても、

 

調査第一日目において、担当職員が金銭の貸付けを業として行っていないか質問したのに対し、原告は、当初はこれを認めようとせず、担当職員の説得により漸く金銭の貸付けに関するメモを提出したが、これには本件貸付けに関する記載はなかったこと、その日に、原告は、本件貸付けの事実の存在を明らかにしなかったこと、

 

 

調査二日目において、担当職員が植原貢らの氏名をもちだすに及んで、原告は漸く本件貸付けに関する資料の一部を提出したこと、しかし、自ら保有する本件貸付けに関する資料の一部しか提示せず、右提出に係る前記公正証書記載の貸付金額についてもその算定の根拠を担当職員に積極的に説明しようとしなかったこと、その後の調査においても、担当職員が右貸付金額の算定根拠について何度も質問したが、原告はあいまいな回答をするだけで、その算定根拠となる資料の提示もしなかったことが認められる。

 

 

 

 右によれば、原告は、当初から所得を過少に申告することを意図したうえ、その意図を外部からもうかがいうる特段の行動をしたものとみるべきであるから、その意図に基づいて原告のした平成元年分を除くその余の各年分の所得税に係る過少申告行為は、通則法六八条一項所定の賦課要件を満たすものというべきである。

 

 

 したがって、原告に対しては、通則法六八条一項に基づき、本件各更正処分に伴い原告が新たに納付すべき所得税額を基礎として計算される重加算税を課すべきである。

 

 

 

 原告は、本件貸金利息等について確定申告をしなかったのは、本件訴訟において問題になっているとおり、本件貸付けに関して現実に何らの利益も得ていないので、税務申告の必要ありとは全く考えていなかったことに尽きるのであり、ことさらに事実関係を隠ぺいしようとする意図はなく、重加算税の賦課要件は存在しない旨主張するところ、甲八にはこれに沿う原告の陳述記載があり、原告は本人尋問においても同趣旨の供述をしている。

 

 しかしながら、原告が営む質屋業にあっては、一般に未収の利息等の計算が不可避であり、また、原告は、本来の事業である質屋業を営む傍ら、開業当初から第三者に対する金銭の貸付けを継続的に行っており、貸付残高も、昭和四〇年ないし同四五年ころには約二億円にも達していたことが認められるのであって、

 

 

 このことに、本件貸付けに関する経緯、ことに、利息等を元本に組み入れて各準消費貸借契約を締結し、本件当初貸金及び右各準消費貸借契約に基づく債権を被担保債権として債務者所有の不動産に根抵当権を設定するなど、債権保全の措置を講じていることなどを考慮すれば、前述したとおり、原告は、金銭の貸付けに関する知識を十分有しており、本件当初貸金に係る消費者貸借契約及び右各消費貸借契約に基づき本件貸金利息等の債権が発生し、これが所得を構成するとの認識を有していたものと認めるのが相当である。原告の主張に沿う甲八の記載及び原告本人の供述はたやすく信用することができず、他に右認定を覆す証拠はない。