隠ぺい又は仮装(16)

 

 

 複数ある争点のうち、本件貸金利息等に係る所得を申告しなかったことについて、通則法六八条一項の定める重加算税の課税要件が存在するか否かについて、当事者の主張を検討します。

 

 

 

 

 

 

(原告の主張)

 

 

 

(一)原告が本件貸金利息等について確定申告をしなかったのは、本件訴訟において問題になっているとおり、本件貸付けに関して現実に何らの利益も得ていないので、税務申告の必要ありとは全く考えていなかったことに尽きるのであり、ことさらに事実関係を隠ぺいしようとする意図はなく、重加算税の賦課要件は存在しない。  

 

 

(二)被告は本件の税務調査の際の原告の対応を論難するが、重加算税を課するためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠ぺい、仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為とは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要するものというべきであり、

 

 

事後的な税務調査時の納税者の態度が直接問題になるわけではなく、これを強調する被告の決め付けは不当である。

 

 

 原告が本件貸付金利息等について確定申告をしなかったのは、前記(一)で述べたとおり、本件貸付けについて税務上の問題が発生するとは全く考えていなかったからであり、その基本的認識は現在も変わらず、所得を隠ぺいしようとする意図に基づいたものではないことは明らかであり、それ以外にも原告は何ら仮装・隠ぺい行為を行っていない。

 

 

 

(三)もとより、本件の税務調査時においても、原告は担当職員からの要求に基づいて本件貸付けに関する公正証書等の重要書類を提出しており、ことさらに本件貸付けに関する事実関係を隠そうとした事実はない。

 

 

 原告と担当職員との間で、本件の税務調査時に主に問題となったことは、「利息・損害金がいくら発生しているのか」ということであり、

 

この点について原告が利息と損害金の区分もつかないまま書き替えられた公正証書等の数字について明確な説明ができなかったことは事実であるが、

 

これは利息・損害金としては一円の回収もしていないということ以外は、原告自身が法的関係を十分に理解していなかったことによるものであり、これを事実関係の隠ぺい行為と評価することは間違いである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(被告の主張)

 

 

 

(一)通則法六八条が規定する重加算税は、同法六五条ないし六七条所定の各種の加算税を課すべき納税義務違反行為が事実の隠ぺい又は仮装という不正な方法に基づいて行われた場合に、違反者に対して課される行政上の措置であって、故意に納税義務違反を犯したことに対する制裁ではないから、同法六八条一項による重加算税を課し得るためには、納税者が故意に課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺい、仮装行為を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足り、それ以上に、

 

 

申告に際し、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまでも必要とするものではないと解される。

 

 

(二)前記記載のとおり、原告は、故意に課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし、その隠ぺいしたところに基づいて本件係争各年分の申告をし、そのため過少申告の結果が発生したものであり、右は通則法六八条一項の要件に該当する。したがって、原告に対しては、本件各更正処分に伴い原告が新たに納付すべき所得税額を基礎として計算される重加算税を課すべきである。

 

 

(三)原告は,本件貸金利息等について、一円の利息・損害金も収受していないから、この分について所得が発生しているとの認識はなかったこと、及び本件当初貸金も個人的な知合いだった植原貢らにやむなく好意的に融通したもので、原告は貸金を業として行ってきた事実はなく、そのような知識も認識も備わっていない旨主張する。 

 

 

 しかしながら、原告が営む質屋業にあっては、一般に未収利息・損害金等の計算が不可避であることからすれば、原告は、利息制限法などの貸金に係る知識も十分有していたと認められ、

 

 したがって、本件貸付けに関して「所得が発生しているとの認識はなかった」とする原告の主張はにわかに信じ難いといわなければならない。

 

 原告は、本来の事業である質屋業を行いながら、開業当初から裏で第三者に対する金銭の貸付けを継続的に行っており、貸付残高も、昭和四〇年ないし同四五年ころには約二億円にも達していたのであるから、貸金を継続反復して行ってきた事実はないとする原告の主張は事実に反する。