隠ぺい又は仮装(15)

 

 

 

 本日からは東京高等裁判所 平成11年(行コ)第47号、平成11年 8月30日 判決、税務訴訟資料240号40頁について検討します。

 

 

 

 

 

 

 

事案の概要

 

 

 本件は、原告が平成元年分ないし平成五年分(以下「本件係争各年分」という。)の所得税についてした申告には、貸付金の利息及び損害金(以下「利息等」という。)にかかる雑所得が計上されていないことなどを理由として、被告が本件係争各年分の所得税の各更正処分及び各重加算税賦課決定処分をしたのに対し、原告が右各処分のうち、審査裁決により全部取り消された平成元年分の所得税の重加算税賦課決定処分を除くその余の各処分(ただし、いずれも審査裁決により一部取り消された後のもの)を不服として、その取消しを求めている事案である。

 

 

 

 

 被告は、原告が毎年損失申告書を提出していること、原告が質屋業を営む傍ら、第三者に対する金銭の貸付けを業として行っている疑いがある旨の情報があるにもかかわらず、原告の本件係争各年分にかかる所得税の確定申告書に貸金利息に関する記載がないことから、右申告が適正であるかどうかを調査する必要があると認め、被告所部の職員(以下「担当職員」という。)に調査を命じた(乙六ないし一〇、二三、証人星憲雄)。

 

 

 担当職員は、平成六年五月一二日から同年一二月一三日まで、原告方店舗に臨場するなどして調査を行った。右調査結果の概要は、次のとおりである(甲九、乙一ないし五、二三、二四、証人星憲雄)。

 

 

(一)原告は、質屋開業のころから、質屋営業の傍ら第三者に対する金銭の貸付けを継続的に行っていた事実があること、昭和四〇年ないし昭和四五年ころには、約二億円の貸付残高があったことなどが確認された。

 なお、担当職員が貸付金の資金源について質問したところ、原告は金主がいる趣旨のことを述べたが、その氏名は明らかにできないとして回答を拒絶した。

 

 

(二)担当職員が、原告に対し、右貸金に関する帳簿、書類の提示を求めたところ、原告からは、昭和四二年ないし昭和四八年ころに金銭を貸し付けていたことを示すメモ、朝日生命が平成六年五月三〇日付けで発行した阿部についての死亡保険金支払証明書(原告は、朝日生命から、平成四年一二月八日付けで阿部の死亡保険金一九二五万〇六八二円を受け取っている。)、

 

 

 原告とサスキチ味噌の代表者である小口英夫との間において成立した、原告の同人に対する金銭消費貸借契約に基づく約六一三三万円の貸金債権が存在することを確認し、

 

 

 同人がこれを支払う旨の内容の昭和五九年一二月二六日付けの和解に係る調書等のほか、本件貸付けに関する各資料、すなわち、植原恭が原告あてに発行した平成元年六月二六日付けの借用元金六六〇〇万円の領収書、原告を根抵当権者とし、植原貢らを債務者兼根抵当権設定者とする同月二七日付けの根抵当権設定契約証書、連帯債務者である植原貢が原告に差し出した平成四年三月三日付けの念書、原告を債権者とし、植原貢らを連帯債務者とする平成五年六月一日付けの「抵当付債務弁済契約公正証書」の各書類が提示された。

 

 

 しかし、原告からは、それ以外の資料の提示はなく、原告は、貸金に関する明細等の記録・保存はない旨申し立てた。

 

 

 なお、原告の依頼を受けた小西税理士は、平成六年六月二九日、被告に対し、「年月日」、「借用証等」、「追貸金」、「利息」及び「計算根基」の各欄に金額等の記載がある「参考」と題する書面を提出し、右書面は、本件貸付けにかかる資料から、右税理士において作成したものである旨を担当職員に説明したが、その基礎となる資料は提示されなかった。

 

 

 

(三)原告は、本件貸付けに係る元金は六六〇〇万円であること、植原貢らに対する追加融資はないこと、同人らから平成五年中に三〇〇〇万円の返済を受けたことを説明した。

 

 

 担当職員は、平成六年六月九日、原告に電話を架け、本件貸付けに関して、本件当初貸金の貸付日が平成元年六月二六日であり、貸付元金が六六〇〇万円、利息が年一五パーセント及び損害金が年三〇パーセントであったことに相違ないか否かを確認したところ、原告はこれを肯定した。

 

 

 

 なお、本件当初貸金六六〇〇万円を利息の利率年一五パーセント、損害金の利率日歩年二九・九三パーセント(日歩八銭二厘)として複利計算すると、本件当初貸金の元金と利息等の金額の合計額は右公正証書記載の債権額とほぼ同額になる。

 

 

(四)担当職員が、平成六年一二月六日、原告方店舗に臨場し、原告に対し、本件係争各年分の事業所得に係る帳簿書類等の提示を求めたところ、原告は、質物台帳、人名簿及び古物台帳の作成並びに必要経費の領収書の保存はしているが、現金出納帳、売上帳及び経費帳は作成していない旨申し立てた。

 

 

 

 

 

 

 担当職員は、平成六年一二月一三日、今まで原告から提示を受けた資料に基づいて本件貸付けに係る所得金額を算定せざる得ない旨説明し、右金額による修正申告のしょうようを行ったが、原告は、修正申告には応じられない旨回答した

 

 

 そこで、被告は、原告に対し、平成七年二月二八日付けで、所得税法(以下「ほう」という。)一五〇条一項一号に基づき、

 

 

 原告の平成元年分以降の所得税の青色申告の承認を取り消すとともに、

 

 

 事業所得については、本件賃料の一部及び医療費を否認し、

 

 

 また、本件貸付けに係る利息等のうち利息制限法所定の制限内の部分を本件係争各年分の雑所得として課税の対象とすることとし、

 

 

 本件各係争年分の原告の所得税について、別表1ないし同5の「更正・賦課決定」欄記載のとおり各更正処分及び各重加算税賦課決定処分を行った。