隠ぺい又は仮装(12)

 

 

第1審の判示事項を検討します。

 

 

 

 

 

 法68条に規定する重加算税は、法65条ないし67条に規定する各種の加算税を課すべき納税義務の違反が行われた場合に、その違反行為が、課税要件事実を隠ぺいし、又は仮装するという申告納税方式の趣旨を没却するような不正な手段を用いて行われた場合に、行政機関の行政手続によって、違反者に対して、各種の加算税におけるよりも重い一定比率を乗じて得られる金額の制裁を課することとしたもので、これによってこのような方法による納税義務違反の発生を防止し、もって自主的な申告納税方式による徴税の実を挙げようとする趣旨に出た行政上の措置である。

 

 

 したがって、法68条1項の隠ぺい行為等とは、納税者の取引状況などの所得を基礎づける事実を隠ぺい又は仮装するなど申告納税主義の趣旨を没却する行為をいうと解するのが相当である。

 

 

 

 

 

 

 

 前記認定事実によれば、原告は、他人名義で株式等の取引や預貯金をしたりして所得を隠すような行為こそしていないものの、本件各年分の株式等の売買による所得を申告しなければならないことを熟知しているにもかかわらず、独自の考えから確定的な脱税の意思に基づいて、確定申告書作成のために自ら依頼した税理士に対しても課税要件を充足する株式等の売買による所得があったことを隠し、右税理士から所得に関する資料の提出を求められたのに対し、会社の所得及び原告の他の種類の所得についての資料を提出しながらも、株式等の取引に関する資料を提出せずに、その所得部分を脱漏させて、ことさら所得金額を過少にした内容が虚偽の申告書を右税理士に作成させたのである。

 

 したがって、原告の右行為は、その所得を基礎づける事実を隠し、その真相の追求を困難にするもので、所得税の徴収を納税者に委ねた趣旨を没却する行為ということができるから、法68条1項にいう「国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装」する行為に当たり、この内容虚偽の確定申告書を提出することは、同条項の「隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していた」場合に該当すると解するのが相当である。

 

 

 

 原告は、本名で株式等の取引や預金もしていて取引の相手方に全く不信を抱かせることすらしていないから原告に隠ぺい行為等がなかった、原告に資料の保存義務や計算義務はないから資料を保存しなかったことや計算しなかったことが隠ぺい行為等に当たることはない、顧問税理士は原告の履行補助者であって被告の履行補助者ではないからその税理士に事実を隠したり過少申告の指示をしたことも隠ぺい行為等に当たらないなどと主張する。

 

 

 

 確かに、原告は株式等の取引や預金を本名で行っているが、前述のとおり、それを考慮してもなお原告の行為は十分隠ぺい行為等に当たり得るものというべきである。

 

 

 

 また、税理士は、「税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそって、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする」(税理士法1条)職業であり、納税者に依頼されてその職務を行う者であるが、他方で、納税者の不当な信頼に応える義務はなく、納税義務の適正な実現を図る公益的な立場にも立つ者であるから、

 

 原告より本件各年分の所得税の申告手続をすることの依頼を受けた税理士を単なる原告の履行補助者にすぎないものということはできない。

 

 

 右税理士は、適正な納税義務の実現を図るため原告に対して何度も注意し、資料の提出を求めたにもかかわらず、原告は、株式等の取引による所得があったことを隠し、その部分に該当する資料を提出しなかったのであるから、原告の右行為は、資料の保存義務の存否にかかわらず隠ぺい行為等に該当するものと解するのが相当である。