隠ぺい又は仮装(8)

 

 

 

 控訴審、大阪高裁平元(行コ)第三三号、平3・4・24第三民事部判決、税務訴訟資料183号364頁

の裁判所の判断について検討します。

 

 

 

 

 

1 重加算税は、過少申告加算税、無申告加算税及び不納付加算税が賦課されるべき場合に、納税義務者がその国税の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、もしくは仮装し、これらの行為に基づいて申告をし、又は、申告をせず、あるいは税金の納付をしなかったときに、これらの加算税に代えて、一定の加重された負担を課する租税である。

 

 ところで、法六八条一項に定める重加算税の課税要件である「隠ぺい・仮装」とは、租税を脱税する目的をもって、故意に納税義務の発生原因である計算の基礎となる事実を隠匿し、又は、作為的に虚偽の事実を付加して、調査を妨げるなど納税義務の全部または一部を免れる行為をいい、このような見地からは、重加算税の実質は、行政秩序罰であり、その性質上、型式犯ではあるが、不正行為者を制裁するため、著しく重い税率を定めた立法趣旨及び「隠ぺい、仮装」といった文理に照らし、納税者が、故意に脱税のための積極的行為をすることが必要であると解するのが相当である。

 

 

 そして、隠ぺい、又は仮装行為が、申告者本人ないし申告法人の代表者が知らない間に、その家族、従業員等によって行われた場合であっても、特段の事情のないかぎり、原則として、右重加算税を課することができるものと解すべきである。

 

 

 

 

 

 

 

2 本件においては、前記認定にかかる事実関係によれば、亡山本益次郎は、本件土地の売買にあたって初めて知った笠原正継から、所轄税務署である中京税務署には知合いも多く、多少の便宜ならはかってもらえるので、本件土地の譲渡所得を含む昭和五九年分の申告納税の手続を自分に任したらどうかと持ちかけられて、

 

 笠原正継が前記認定のような架空の経費を計上して脱税を計り、

 

 さらに、自分から、税金名下に一八〇〇万円を詐取しようと企画しているとは全く思いもしないで、

 

 笠原正継に本件土地の譲渡所得税の申告手続を依頼したところ、

 

 同人は、前記のとおり、亡山本益次郎の本件土地の譲渡所得は、一億一一五三万円であるとし、これに対する「永代管理小作料」として、一億〇四九五万三五〇〇円を全国同和対策促進協議会に支払った旨の架空の経費を含む必要経費の額を一億一〇五三万円と計上し、亡山本益次郎の譲渡所得を零円として、所轄税務署長に申告をしておきながら、

 

 亡山本益次郎に対しては、本件土地の譲渡所得による所得税は、一八〇〇万円であるとして、その支払いを要求したので、亡山本益次郎は、右譲渡所得による所得税は一八〇〇万円であると考え、右所得税として支払うものとして、笠原に一八〇〇万円を交付したものというべきである。

 

 

 そうとすれば、亡山本益次郎は、本件土地の譲渡所得税として一八〇〇万円を支払う意思で、右一八〇〇万円を笠原に交付したのに、笠原が不法に右一八〇〇万円を税務署に納めなかったのであるから、

 

 このような場合には、亡山本益次郎としては、本件土地の譲渡所得について、故意に、その全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装をしたものではなく、したがって、法六八条により、重加算税を賦課することはできないと解するのが相当である。

 

 

 

 

 

(1) 弁論の全趣旨によれば、亡山本益次郎が、昭和六〇年三月九日に行った昭和五九年分の所得税の確定申告は、右三月九日現在を基準とすれば、適正なものであって、右申告の内容自体に虚偽ないし不正はなかったことが認められること、

 

(2) 前記認定の如く、本件土地の売買による現実の取引は、昭和六〇年四月二日に行われ、亡山本益次郎は、右同日、本件土地の売買代金を受け取ったのであるから、右譲渡所得による所得税の確定申告の期限は、昭和六一年三月一五日であって、亡山本益次郎としては、右昭和六一年三月一五日までに、右譲渡所得税の確定申告をすれば足りたこと、

 

(3) さらに、前記認定の事実関係に、原本の存在及び〈証拠〉等によれば、亡山本益次郎は、笠原の欺罔行為により、本件土地の譲渡所得税については、笠原に対して前記一八〇〇万円を交付したことにより、全部納付されて終了したものと考えていたことが認められること等、

 

 以上(1)ないし(3)の諸事情からすれば、亡山本益次郎の納付すべき昭和五九年度の税額の基礎となった事実のうちに、昭和六一年二月五日にした修正申告前の税額の計算の基礎とされていなかったこと(すなわち、本件土地の譲渡所得を右税額の計算の基礎としなかったこと)について、亡山本益次郎には、法六五条四項所定の正当の理由があるものと認めるのが相当である。