隠ぺい又は仮装(7)

 

 

 

 課税庁は控訴しました。課税庁の主張を検討します。

 

 

 

 

 

 

 

1 本件においては、重加算税の課税要件である国税通則法(以下「法」という。)に定める期限内申告書の提出があり、法六八条所定の重加算税の課税要件を充足している。すなわち、

 

 

(一) 法六八条一項は、「第六五条一項(過少申告加算税)の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告していたとき」は、重加算税を課すると規定している。

 

 したがって、重加算税の課税要件は

 

 (1) 法六五条一項(過少申告加算税)の賦課要件と、

 

 (2) 「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の隠ぺい、又は仮装」により、右過少申告

      がもたらされているというべきである。

 

 

(二) そして、法六五条一項に規定する「期限内申告書が提出された場合」とは、過少申告加算税を課することとなる修正申告の前に提出された納税申告書が期限内申告書であるべき旨を規定したものではなく、単に、加算税を賦課すべき修正申告書に係る国税について、期限内申告書が提出されている場合には、加算税が、法六六条で規定する無申告加算税ではなく、過少申告加算税として、法六五条一項ないし三項の規定により、その額を算出すべきことを規定しているに過ぎないものと解すべきである。

 

 

(三) これを本件についてみるに、

 

 

(1) 亡山本益次郎は、同人の昭和五九年分の所得税につき、昭和六〇年三月九日に、当初申告を行い(期限内申告書の提出があり)、

 

(2) その後、昭和六〇年四月九日に、修正申告書を提出しており(第一次修正申告。本件申告)、

 

(3) さらに、昭和六一年二月五日に、修正申告書を提出している(第二次修正申告)が、

 

 

 右第二次修正申告によって納付すべき税額(第一次修正申告に係る税額から増加した税額)は、法三五条二項の規定より、二六五二万八四五〇円であった。

 

 したがって、本件において、法六五条の過少申告加算税及び法六八条の重加算税を賦課する要件を充足していたものというべきである。

 

 

2 亡山本益次郎は、その所得を隠ぺい、又は仮装するについて、当初から、未必的な認識があったものである。

 

 

 仮に、そうでなく、亡山本益次郎が、笠原から、本件申告書の写しを受け取ったときに、始めてその所得を隠ぺい、又は仮装したことを知ったものであるとしても、亡山本益次郎としては、速やかに、適正な修正申告をする等の是正措置をとるべきであった。

 

 

 しかるに、亡山本益次郎は、笠原の不正な申告を奇貨として、税額を少なくするために、敢えてこれを放置し、右不正な申告を自己の申告として、維持しようとしたのであるから、右亡山本益次郎の行為は、単なる不作為に止まるものではなく、むしろ、当初から不正を容認して申告を行ったと同視し得るものと解すべきである。したがって,亡山本益次郎は、法六八条所定のその所得を隠ぺいし、又は仮装しようとした行為があったものというべきである。

 

 

3 次に、法一五条二項一五号は、重加算税の賦課権の除斥期間の起算点を明らかにした規定であって、重加算制の課税要件を定めたものと解すべきものではない。重加算税の課税要件の存否については、あくまでも、法六五条、六八条の規定によってその是非を決定すべきである。