隠ぺい又は仮装(4)

 

 本日は税務訴訟資料173号831頁、京都地裁(三民)昭62(行ウ)43、平成元年9月22日判決について検討します。

 

 

 

 

 

 まずは原告の主張を検討します。

 

 

1 被告は原告に対し、昭和61年6月11日付で、原告の昭和59年分所得税についての26,520,000円の過少申告につき「事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装した」として、7,956,000円の重加算税の賦課決定処分(以下「本件処分」という。)をした。

 

 

2 しかし、右過少申告は、右申告を依頼された訴外笠原正継(以下「笠原」という。)が、原告から受領した18,000,000円を自己の報酬として着服し,架空の譲渡費用を計上して申告したことによるもので、原告の全く知らないことである。

 

 

すなわち、

 

 

(1)原告は、昭和59年11月27日笠原に対し、原告所有の別紙物件目録記載1の土地を代金83,980,000円で売り渡し、同日笠原が代表取締役である有限会社カサハラ商事に対し、原告所有の別紙物件目録記載2の土地(同記載1の土地と一括して「本件土地」という。)を代金27,550,000円で売り渡し、同日手付金合計10,000,000円を、昭和60年4月2日残金合計101,530,000円をそれぞれ受け取った。

 

 

(2)笠原は、昭和60年4月2日取引終了後、原告に対し、原告の納税地を管轄する中京税務署とは心易いのでうちの事務所を通じて譲渡所得税の申告をしてやると持ちかけてきたので、原告は笠原を信用して右申告を依頼したが、同人は金額が確定すれば連絡するのでその金額を持参するよう告げた。

 

 

(3)そして、笠原が同月8日ころ申告ができたとして18,000,000円を持参するよう連絡してきたので、原告は、同月9日、同額の小切手を持って笠原の事務所に赴き、同人から中京税務署の受付印のある申告書用紙を見せられ、同人を疑うこともなく、また申告書をあらためることもなく、税金納付用と信じて右小切手を同人に交付し、これで自己の申告は終了したものと思い込んだ。

 

 

(4)ところが、原告は、昭和61年2月5日京都地方検察庁から呼出を受けて出頭し、同庁にいた国税局査察官の取調を受け、その結果、笠原は現在全日本同和会の脱税指南事件の被告人として身柄を拘束され、多数の脱税事件を惹起したとして刑事訴追を受けている人物であり、本件についても譲渡所得額を零として申告していたことが判明し、原告が交付した前記小切手は笠原が不法に領得していたことが明らかとなった。

 

 

(5)その後の調査により、次の事実が明らかとなった。

 

a 原告は茶販売業を営み、昭和59年分の所得税については昭和60年3月9日青色申告により管轄の中京税務署に確定申告していたものである。

 

b ところが、笠原は、(1)の売買の取引日が昭和60年4月2日であるから、その代金収入については昭和60年分の所得として翌昭和61年2月16日から同年3月15日までの間に申告すれば足りるのに、昭和60年4月9日中京税務署に対しこれを前記昭和59年分の所得税の修正申告として手続をした。

 

c その修正申告の内容は、本件土地の譲渡代金111,530,000円に対し、「永代管理小作料」として100,453,500円を計上し、「分離長期譲渡所得0円」とする実質的な内容変更の全くないものであった。

 

 

 

3 原告は被告に対し、本件処分について異議申立をしたが、被告が昭和61年10月27日付で異議申立を棄却したので、原告は国税不服審判所に対し審査請求したが、同審判所も審査請求を棄却した。

 

 

4 しかしながら、原告は自ら事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装したものではないし、また笠原にそのような不法な申告を依頼したわけではなく、同人が権限外の不法な申告をしたにすぎないから、本件処分は違法であり、その取消を求める。