隠ぺい又は仮装(1)

 

 税務訴訟資料82号70頁、和歌山地方裁判所(第一審)、昭和50年 6月23日判決について検討します。

 

 

 

 

 

 

 被告は、昭和三八年四月上旬から同年一〇月までの間において、部下職員に命じて、原告の本件係争年度分およびその前年度(昭和三五年度)分の法人税調査を行なつたところ、

 

 原告が、ホテルの売上金や映画劇場のスライド収入を公表帳簿より除外したり、架空の材料仕入等を公表帳簿に計上するなど、経理上の不正処理により多額の法人税を逋脱している事実を把握した。

 

すなわち、

 

1 まず、調査担当者は、原告の各種事業部門のうち、その事業の性格上、日々の記帳状況や現金管理の状況等の把握を目的とする、いわゆる現況調査が特に必要とされるホテル部門(日の丸ホテル)に赴いて調査した。その結果、フロント事務所内の同経理責任者の机内から、同ホテルの最近二ケ月間の日々の収入金額につき、本勘定計上額、収入除外額およびその合計額に区分記載したメモ等、同ホテルの不正事実を窺うに足りる書類を把握した。そこで、これらのメモ等を根拠に代表者や経理責任者等に対し、同ホテルの不正経理に関し説明を求めたが、右関係者等は、不正事実を全面的に否認するのみで、具体的な答弁は一切しようとしない状態であつた。

 

 

2 このため、調査担当者は、原告の取引銀行である株式会社紀陽銀行中ノ島支店に赴き、右メモ等の記載事項を手がかりに調査を続けたところ、同年六月頃までに、右収入除外金を日々入金していると認められる根本武司ほか四口の架空名義の普通預金を発見し、これらの預金の入金状況等から原告は、昭和三五年頃より継続的に同ホテルの日々の収入金額のうち、ほぼ半額を除外していることが容易に推認された。

 また、この間、右銀行調査に併行して行なつていた原告の帳簿調査や取引先に対する反面調査等から、原告は、右ホテル部門の収入除外のほかにも、製材や紙器部門において、多額の架空仕入や架空経費を計上して不正を行なつていることが推認されるに至つた。

 

 

3 右のように原告の不正事実は多額でありかつ複雑であつたので、さらに十分な調査を尽くすため、被告は本事案を署内の特調班に移した。右特調班による調査は同年八月上旬より開始され、同年九月末頃までには、架空名義の普通預金一〇数口の発見等、原告の各部門における合計約六、〇〇〇万円にのぼる売上除外の事実を把握するに至つた。

 

 

4 この間、調査担当の職員は、新たな不正事実の発見あるいは簿外預金判明の都度、原告の代表者等に説明を求めていたのであるが、相変らず不正経理を全面的に否認する等不誠実かつ非協力的な態度に終始していたところ、右のような調査の進展をみるに至つて、ようやくその態度を改め、同年九月中旬公認会計士海老三郎を代理人として、調査の協力を申し出、同年一〇月中旬には、代表者と右海老両名が来署し、特調班に対し、これまでの調査に手数をかけさせたことを詫びるとともに、不正経理の事実を全面的に認め、これが簿外預金のすべてであるとして、ジユラルミンのトランクに入れて持参した定期預金証書等を提示した。