役員退職給与の過大支給と第2次納税義務(5)

 

 

裁判所の判断は以下の通りでした。

 

 

 

 

 

 役員退職給与の金額の相当性の判断に当たっては、当該法人と同業種、類似規模の法人の役員退職給与の支給事例から功績倍率の平均値を算出し、その平均値に、過大な役員退職給与を支給されたか否かが問題とされている役員の最終報酬月額及び勤務年数を乗じて算出した金額をもって、その役員に対する相当な役員退職給与の金額とする平均功績倍率法が利用されることがある。

 

 

 しかして、役員退職給与の額は、通常、その役員の法人に対する功績がもっとも反映される最終報酬月額及び勤務年数を基礎として算出されるのが一般的であるから、平均功績倍率法は、比較対象とする法人の役員退職給与の支給事例の選定が合理的に行われている場合には、過大な役員退職給与を支給されたか否かが問題とされている役員の最終報酬月額がその役員の在職期間を通じての当該法人に対する功績を適正に反映していないと認められる特段の事情がない限り、法人税法三六条、同法施行令七二条の趣旨に合致し、合理的なものということができる。

 

 

 

 

 本件において、被告は、平均功績倍率法により、原告らの相当とされるべき退職金額を一五七九万二〇〇〇円と算出し、これと本件各退職金八〇〇〇万円との差額である各六四二〇万八〇〇〇円は、過大な役員退職給与として損金不算入とすべき金額であり、同金額は、原告らのそれまでの正当な職務執行及び功労の対価とは認められないとして、その差額分の支給は訴外会社が無償で財産を処分したことになる旨主張している。被告の右主張は、法人税法三六条により過大な役員退職給与として損金に算入されない退職金の支給は、すべて、国税徴収法三九条の無償による財産の処分に該当するというものである。

 

 

 しかしながら、法人税法三六条は、法人税の算出の基礎となる所得金額の計算について過大な役員退職給与部分を損金の額に算入しない旨を定めているにすぎないものであり、会社と役員の間の役員退職給与の支給に関する法律関係の効力を否定するものでないことはもちろんであり、それが当該役員の職務の執行及び功労に対する対価であることを否定する趣旨までを含むものでもない。

 

 

 したがって、法人税法三六条との関係で、当該役員の退職給与のうちに過大な役員退職給与部分があり、その損金算入が否認されるからといって、直ちに右過大な役員退職給与部分のすべてが当該役員の職務の執行又は功労と全く無関係に支給されたものと即断することはできず、それが、右職務の執行又は功労と無関係に支払われたもので、国税徴収法三九条が第二次納税義務が成立するための要件として規定する、無償又は著しく低額の対価による財産の処分に該当するかどうかは、当該役員の職務又は功労の内容、程度、勤務年数等と対比して別途に判断されるべきものである。

 

 

 

 

 

 日本橋税務署長は、訴外会社の昭和六三年六月期の法人税の確定申告書において損金として経理されていた本件各退職金について、不相当に高額な部分の金額を算定するに当たり、東京国税局管内の各税務署に照会して、訴外会社と同種の菓子製造業を営み、本件各退職金の支給が決定されたのとほぼ同時期である昭和六二年一二月から昭和六三年一二月までの間に役員に退職金を支給したことのある法人(ただし、退職金について源泉所得税を納付している法人)を抽出した上、訴外会社の昭和六三年六月期を含む過去三事業年度の平均売上金額が約五一〇〇万円であったことから、比較対象とする法人の範囲を、その法人の過去三事業年度の売上金額の平均額が五〇〇万円を超え、五億円以下のもの(比率にして概ね〇・一倍を超え、一〇倍以下のもの)で、退職金額等に疑問があるとして各所轄税務署において調査の対象としているという事情がないものに絞って類似法人を選定し、その退職金支給状況を調査したところ、別表2記載のとおりの結果が得られ、その平均功績倍率は三・二九(小数第三位以下四捨五入)であったことが認められる。

 

 

 しかして、右選定過程に恣意の介在は認められず、選定された同業者数は各事業者の個別性を捨象するに足りるものであること、訴外会社と選定された同業五社との売上金額の比率は別表2の「訴外会社の売上金額に対する比率」欄記載のとおりであり、選定基準とされた比率よりも低い〇・三倍から六倍の範囲に入っていること、各同業者における功績倍率にはややばらつきがみられるが、同業五社のうち四社における功績倍率はいずれも右平均功績倍率よりも下回っていること等に照らしてみれば、日本橋税務署長が行った右退職金支給事例の選定は、法人税法三六条、同法施行令七二条の規定にかんがみ合理的に行われたものということができ、原告らに対する相当とされる退職金額を算定するための係数として、右平均功績倍率三・二九は妥当性を有するものと認められる

 

 

 

 訴外会社が昭和四四年二月三日に設立され、原告利勝が代表取締役に就任したこと、訴外会社が昭和六三年六月三〇日に解散したことは、当事者間に争いがないところ、証拠(甲一三ないし一八、二一、乙一、一六、原告利昭本人)によれば、利春は、戦後、菓子製造販売業を始め、昭和三〇年七月に株式会社玉英堂を設立して会社組織で事業を展開したが、昭和三七年一月ころ交通事故に遭い、そのころから利春の長男である原告利昭が中心となって菓子製造販売業の経営を行うようになったこと、昭和四四年ころ、株式会社玉英堂が手形不渡りを出して経営が行き詰まった際に、訴外会社が設立されたが、訴外会社としては営業活動は行わず、株式会社玉英堂が経営規模を縮小して引き続き営業活動を行っていたこと、その後、昭和五一年六月三〇日をもって株式会社玉英堂は休業し、同年七月一日から、設立以来営業活動を行っていなかった訴外会社が株式会社玉英堂の営業をそのまま引き継ぐこととなったこと、原告利昭は、同年一〇月三一日、訴外会社の取締役に就任し、訴外会社の解散に至るまで取締役の地位にあったこと、昭和五六年一二月一六日、訴外会社の代表者が原告利勝から利春に変更になったが、原告利勝は、その後も、訴外会社の解散に至るまで取締役の地位にあったことが認められる。

 

 右認定事実を前提とすると、原告らの勤務年数を計算するに当たって、訴外会社の前身である株式会社玉英堂における稼働期間をどのように評価すべきかが問題となるところではあるが、訴外会社と株式会社玉英堂とは、法人としては別個のものであり、本件においては、あくまでも訴外会社の取締役としての退職金の金額の相当性が問題とされているのであるから、勤務年数については、訴外会社の取締役としての勤務年数のみを通算すべきである。

 

 

 

 訴外会社は、昭和六三年三月二二日、代表者である利春とその妻の住宅として使用していた本件土地建物を二億三三八〇万円で売却したこと、原告利昭は、本件土地建物の売却益の節税対策等について三菱銀行に相談したところ、同銀行から宮木税理士を紹介され、同税理士から節税のためには、訴外会社を解散して本件土地建物の売却益を退職金として支給することが最善の方法である旨指導を受けたこと、そのため、訴外会社は、宮木税理士の指導に従うこととし、その処理を同税理士に一任し、同税理士において訴外会社の役員退職慰労金支給規定を作成するなどして訴外会社の解散と本件土地建物の売却益を退職金として支給するための事務処理を行ったこと、訴外会社は、同年六月三〇日、臨時社員総会において同社の解散を決議するとともに、原告らを含む役員その他の社員に対し、退職慰労金及び特別功労金として、本件土地建物の売却益にほぼ相当する合計二億一二六〇万円を支給する旨決議し、同年八月三一日、右役員らにこれを支給したこと、同年九月三〇日、訴外会社の役員及び社員の全員を取締役等の役員とし、訴外会社と同じ菓子製造販売業を営む新会社が設立されたが、新会社は、訴外会社の営業をそのまま引き継ぐ形で営業を行っており、訴外会社の解散の前後を通じて、家族で営む菓子製造販売業の営業の実態に変化はなかったことが認められる。

 

 右認定事実によれば、訴外会社が解散し、原告らを含む役員その他の社員に退職金が支給されたのは、専ら、訴外会社の資産である本件土地建物の売却による売却益について訴外会社の法人税を回避するためであり、それぞれの役員らに支給する退職金の金額は、その合計額が本件土地建物の売却益にほぼ相当するように設定されたもので、それぞれの役員らの職務執行及び功労と退職金の金額との対価的均衡を考慮した上で決定されたものではないことは明らかというべきである。

 

 

 

 

 

 原告らは、本件各退職金の支給により、その職務執行及び功労に対する対価として相当と認められる退職金の金額と本件各退職金の金額との差額分について利益を得たと考えるべきところ、前記で説示したところによれば、仮に原告らが訴外会社の前身である株式会社玉英堂において稼働していたことを相当程度原告らに有利に評価したとしても、その差額は原告ら各自について四〇〇〇万円を下らないことは明らかというべきである。

 

 

 

 以上のとおりであるから、原告らに対し本件滞納国税について各自四〇〇〇万円の限度で第二次納税義務を課した本件各告知処分はいずれも適法というべきである。