役員退職給与の過大支給と第2次納税義務(3)

 

 

課税庁の主張を検討します。

 

 

 

 

 

 国税徴収法三九条における第二次納税義務は、

 

(1)滞納者の国税につき滞納処分を執行してもなお徴収すべき額に不足すると認められること、

 

(2)その不足すると認められることが、その国税の法定納期限の一年前の日以後に、滞納者がその財産に

   つき行った無償又は著しく低い額の対価による譲渡、債務の免除その他第三者に利益を与える処分に

   基因すると認められること、

 

 

 という二つの要件を充足する場合に成立するものである。

 

 本件各告知処分は、以下のとおり第二次納税義務の成立要件を具備しており、適法であることが明らかである。

 

 

 

 

 本件各告知処分があった平成三年五月二一日において、訴外会社の資産が本件滞納国税の額に不足する状態であったことは明らかであるから、本件は、訴外会社に対し本件滞納国税につき滞納処分を執行してもなお徴収すべき額に不足すると認められる場合に該当するということができる。

 

 

 

 

(1)訴外会社は昭和六三年六月三〇日に解散しているが、その解散と同時期において役員に対して退職金

  を支給したことのある法人で、しかも訴外会社と同種の菓子製造業を営み、かつ事業規模も類似してい

  る法人の役員に対する退職金の支給状況は別表2記載のとおりであり、その功績倍率(支給退職金額を

  勤務年数で除し、更に最終報酬月額で除した係数)の平均値は、三・二九(小数第三位以下は四捨五

  入)である。

 

 

(2)訴外会社は、昭和四四年二月三日に設立され原告利勝が代表取締役に就任し、昭和五一年一一月一日

  に本店を中央区日本橋人形町二丁目三番二号へ移転し、同年一二月三日に右本店移転の登記がされた。

  しかし、訴外会社は、同年七月一日までは営業活動を行わないいわゆる休眠法人であったから、原告利

  勝の訴外会社における勤務年数は、同年七月を始期として算出すべきであり、原告利昭は、同年一〇月

  三一日に訴外会社の取締役に就任したのであるから、同日を始期として勤務年数を算出すべきである。

  また、原告らの勤務年数の終期は、いずれも昭和六三年六月三〇日であるから、原告ら両名の勤務年数

  はそれぞれ一二年(なお、一年未満の端数を切り上げた。)である。そして、原告ら両名の最終報酬月

  額はいずれも四〇万円である。

 

 

   したがって、原告ら両名の相当とされる退職金の額は、最終報酬月額四〇万円に平均功績倍率三・二

  九を乗じ、さらに、勤務年数一二年を乗じて算出された額であり、その額は、原告ら両名ともに一五七

  九万二〇〇〇円である。

 

 

(3)右のとおりであるから、原告らの相当とされる退職金の額は、それぞれ一五七九万二〇〇〇円であ

  り、本件各退職金八〇〇〇万円のうち利益処分とされ損金不算入とすべき金額は、八〇〇〇万円から一

  五七九万二〇〇〇円を控除した六四二〇万八〇〇〇円であることとなり、同金額は、原告らのそれまで

  の職務執行及び功労に対する正当な対価とは認められない。

 

 

   そうすると、訴外会社が原告らに対し、相当とされる退職金に相当する金額を超える部分を支給した

  こと(以下「本件財産処分」という。)は、原告らに対し、合理的な理由がなく経済的利益を与えたも

  のというべきであるから、納税者が無償でその財産を処分した場合に該当する。

 

 

 

 訴外会社は、本件土地建物の売却益にほぼ相当する退職金を原告らを含む訴外会社の役員に支給する旨の臨時社員総会の決議に基づき、原告らに対し、本件各退職金を支給したために、訴外会社には合計二三四万六二六〇円の預金等の債権しか存在しなくなったのであるから、訴外会社に対し、本件滞納国税につき滞納処分を執行してもなお徴収すべき額に不足すると認められることが、本件財産処分に基因することは明らかである。