修正の経理(5)

 

 

 裁判所の判断は以下の通りでした。

 

 

 

 

 

【A】法129条2項に規定する「確定した決算」とは、株主総会において承認を得た決算のことであるか

   ら、修正の経理は、企業が決算に際して作成すべき財務諸表(貸借対照表、損益計算書等)上なされ

   るべきこととなる。

 

 

 

 ところで、

 

 

【B】同条項の修正の経理については、法は、その定義につき、別段の定めを設けていないが、これを考え

   るに当っては、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準にしたがってなされるべきである(法2

   2条4項参照)。また、一般には、法人税について過大申告がなされた場合、税務署長は、正しい税

   額を納付させるため、更正処分を行い、過大に納付されている税額は還付加算金を付して還付するこ

   ととされているところ、

 

 

 

【C】法129条2項は、仮装経理に基づく過大申告の場合には、税務署長は、確定した決算において修正

   の経理がなされ、これに基づく確定申告書が提出されるまで更正をしないことができることとし、ま

   た、減額更正処分がなされた後の還付方法についても、法70条1項、134条の2において、全額

   を一時に還付することなく、更正の日の属する事業年度前1年間の各事業年度に納付することとなる

   各事業年度の法人税額から税額控除することとされている。右各規定の趣旨は、自ら粉飾決算をして

   意識的に多く納めた税金を、還付加算金を付して一時に還付するということは、数年間の税金を一時

   に還付するという点において財政を不安定にするおそれがあるのみならず、申告納税制度の本旨から

   みても好ましくないこと、また、粉飾決算をなくして真実の経理公開を確保しようという要請とも相

   容れないものであることから、粉飾決算をした法人が自ら仮装経理状態を是正するまでは減額更正を

   留保し、また、還付についても通常の場合より不利に扱うことにするとともに、その是正方法も一定

   の厳格な方法によって既往事業年度の経理を修正した事実を明確に表示することを義務づけ、その負

   担により、財政の安定をはかると同時に粉飾決算を未然に防止することをも目的とするものと解され

   る。したがって、法129条2項の修正の経理の意味内容を解釈するに際しても、右のような法の趣

   旨を踏まえてなされる必要がある。

    右に述べたところにしたがって、法129条2項の修正の経理の意義を考えると、過年度の仮装経

   理は、当期の営業活動や財務活動ではないから、右仮装経理による損益の修正は、企業会計原則(損

   益計算書原則6特別損益・注解注12特別損益項目について)に則れば、特別損益項目中で前期損益

   修正等と計上してなされるべきことになる。また、右のような解釈は、企業会計は、企業の財務状態

   及び経営成績に関して真実の報告を提供しなければならず、財務諸表によって、利害関係者に必要な

   会計事実を明瞭に表示し、企業の状況に関する判断を誤らせないようにしなければならないとの企業

   会計原則の一般原則(真実性の原則及び明瞭性の原則)に合致し、さらには、法がいう一般に公正妥

   当と認められる会計処理の基準にも合致するというべきであり、また、粉飾決算を防止し併せて真実

   の経理の公開を確保しようとする前記法の趣旨・目的とも合致するというべきである。

 

 

 したがって、

 

 

 

【D】修正の経理とは、財務諸表(損益計算書)の特別損益の項目において、前期損益修正損等と計上して

   仮装経理の結果を修正して、その修正した事実を明示することであると解すべきである。

 

 

 

 

 

 これを本件についてみると、前記の事実、証人竹本貢の証言、原告代表者尋問の結果を総合すると、原告は、本件係争各期(及びその後の事業年度)の仮装経理金額につき

 

 

 その翌事業年度の期首に帳簿上反対仕訳をする処理をしたが

 

 

 その後の事業年度の決算の際の財務諸表において、特別損益の項目で前記損益修正損等と計上するなどして修正の事実を明示したことはないことが認められ

 

 

 右認定を左右するに足りる証拠はない。そうすると、修正の経理に関する前記解釈を前提とすれば、本件係争各期の仮装経理金額につき、修正の経理がなされたことはないというほかはない。

 

 

 修正の経理の有無は株主総会で承認を受けた財務諸表において判断されることとなるから、一旦帳簿上反対仕訳がなされても期末に再度仮装経理が行われている場合には、当該事業年度の決算としては、結局修正の経理はなされていないと見ざるをえない。

 

 

 原告は、昭和57年4月期の確定申告において、仮装経理金額を前年度より60,892,452円減額させているから、前期末の架空取引残額を比較して修正の経理の有無を判断するという立場に立つとしても、同期においては修正の経理に基づく確定申告がなされている旨主張する。

 しかし、昭和57年4月期ないし昭和58年4月期の決算における仮装経理金額がその前の事業年度の決算の仮装経理金額と比較して減額しているとしても、原告が昭和57年4月期ないし昭和58年4月期の決算における財務諸表において、本件係争各期及びその後の事業年度の仮装経理金額につき特別損益の項目において前期損益修正損などと計上して修正の事実を明示していないことは、前記で認定したとおりであるから、修正の経理に関する前記解釈によれば、これのみでは、修正の経理があったということはできない。

 

 

 

 前期に架空計上した売掛金を当期に反対仕訳をした結果、当期の売掛金については過小計上されていることとなり、虚偽の記載さえ含まれていることとなるのであり、右のような経理処理に基づく決算でも株主総会の承認を得れば、減額更正処分がなされ、過大納税額についての還付、控除が受けられるとすると、粉飾決算をした法人が過大に納付した税金を取り戻すためにさらに虚偽の内容を含み利害関係者に企業の財務状態及び営業成績について誤解を与えるおそれのある財務諸表を作成することを容認奨励する結果にもなりかねず、そうなると、法129条2項の前記趣旨は著しく蹂躙される結果となるのであって、原告の主張する事実があるとしても、到底、修正の経理があったとは言えない。

 

 

 単に反対仕訳を行い、その結果が含まれた財務諸表を作成することが、粉飾決算の事後処理として会計実務の慣行となっているとしても、それが公正妥当な会計処理の基準に従った経理の方法といえない