修正の経理(4)

 

 

 先日の課税庁の主張に対する納税者の反論。

 

 

 

 

 

 

(一)「確定した決算」とは、株主総会で承認を得た決算であり、修正の経理に基づく会計処理がなされて

   いれば、これが「確定した決算」の中に含まれるのは当然である。被告らは、粉飾の事実が一般に明

   らかにされることを要する旨主張するが、次の理由により失当である。

 

 

 (1)法74条は、確定した決算に基づき確定申告をしなければならないとしているが、被告らの右主張

    のようなことまでは規定していないから、課税上の法律要件を明確にして疑義のないようにしよう

    とする租税法律主義の精神からすれば、被告らの右主張のような解釈は取り得ない。

 

 (2)脱税、租税回避の多くの事実が多くの法人に見られるが、これらの株主総会において、「当社の決

    算書は脱税をしています。」という報告をした例はなく、税金を払わない者に求めないものを、税

    金を余分に払っている者に求めるのは、税務の現状からは無理な解釈である。立法当時、粉飾事実

    の修正経理については、法務省から「決算書上明瞭に粉飾であることが判明するような文言により

    表示する必要がある。」旨の主張がなされたが、税務の現状により採用されなかったことにも留意

    しなければならない。

 

 

 

 

(二)被告らは、修正の経理は「特別損失」または「前期損益修正損」という形で修正することを要する旨

   主張するが、右の修正の経理の方法と原告が行った経理の方法とを比較した場合、その違いは、仮装

   経理の金額を単に当該勘定科目で処理して2期通算での修正を行うか、「特別損失」または「前期損

   益修正」という勘定科目により2期通算での修正を行うかの差に過ぎない。そうして、実質を重んじ

   る税務において、結果が同一であるにもかかわらず、単なる表示方法の差だけで取扱を異にするの

   は、税務上の他の取扱との比較において整合性を欠くし、この点が重要なことであれば、当然政令ま

   たは通達によって公示されていなければならないのであり、被告らの右主張は失当である。

 

 

 

 

(三)被告らは、仮装経理金額の一部についてのみ修正の経理が行われた場合は、未だ更正すべき場合には

   あたらない旨主張するが、次の理由により失当である。

 

 

 (1)法129条2項にいう「事実」とは、例えば、複数の架空の売掛金を計上して仮装経理をした場合

    には、個々の架空の売掛金を指すのであって、これらを集計した仮装経理金額の期末残高を指すの

    ではない。仮装経理金額は、個々の事実の積重ねの結果に過ぎず、これらが前記「事実」に相当す

    るわけではない。そして、個々の架空の売掛金に対応する税金の還付だけを求めようと、これらを

    合わせた分の架空の売掛金に対応する税金の還付を求めようと納税者の自由であり、法はこれを制

    約していない。

 

 (2)また,前期末と当期末の架空取引残高を比較して修正の経理の有無を判断するという立場に立つと

    しても、課税庁内部においては、一部修正の経理という考え方が採用されており、「その場合、い

    ずれの期の架空取引に係る修正とみるかは、原則として古い期から順次充当するのが相当であ

    る。」との指導がされている。本件においては、原告の昭和57年4月期末の右残高は157,0

    17,879円、昭和56年4月期末のそれは217,910,331円であって、その減少額

    は、60,892,452円に上っており(別表5参照)、全体の約28%、昭和53年4月期の

    右残高の約70%に及んでおり相当額について修正がなされているから、課税庁は、これを知った

    昭和57年9月ころの時点では減額更正処分をすべきであった。