修正の経理(3)

 

 

 

 

 対する税務署長の答弁を検討します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 税務署長は、仮装経理に基づく過大申告があった場合には、その後の事業年度の「確定した決算」において当該事実に係る「修正の経理」をし、かつ、当該決算に基づく確定申告書の提出を受けるまでは更正をしないことができることとされている(法129条2項)。

 

 同項は、粉飾決算を行った納税者に対しては、これを是正するための厳格な要件を充足しなければ、税務署長は減額更正をしないことができるとすることにより、納税者に一種の行政上の制裁(不利益)を与え、これにより粉飾決算の防止を目指すものである。

 

 本件では、原告は、次のとおり、右「確定した決算」における「修正の経理」をしていないから、税務署長に更正義務は存在しない。

 

 

 

(一)「確定した決算」とは、株主総会において承認を得た決算、すなわち会社の意思表示として、本来の

   財務諸表において粉飾を修正することを意味する。

 

   粉飾決算は、通常一部の役員等が株主等にその事実を知らせないで行うものであるところ、法は減額

   更正を行うための第1の要件として、株主総会における確定した決算での修正により、粉飾の事実が

   一般に明らかにされることを要求しているのである。

 

 

(二)そして、修正の経理とは、その仮装経理をした事業年度後の事業年度の確定した決算において、「特

   別損失」または「前記損益修正損」(前期以前の損失を当期において計上する場合に、損益計算書に

   表示される勘定科目)の勘定科目で修正することをいう。

 

   すなわち、法22条4項には、当該事業年度の収益の額及び原価、費用、損失の額は別段の定めのあ

   るものを除き、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準にしたがって計算する旨規定し、

 

   右「一般に公正妥当な会計処理の基準」とし、客観的な規範性をもつ公正妥当な会計処理基準を意味

   し、企業会計原規や商法がその中心をなすところ、

 

   過年度に係る損益の修正は、当期の営業活動や財務活動ではないから、

 

   右企業会計原則(損益計算書原則六特別損益・同注解注12特別損益項目について、株式会社の貸借

   対照表、損益計算書及び附属明細書に関する規則42条特別損益の部)によれば、特別損益項目の前

   期損益修正においてなされることになるのである。

 

 

   なお、その修正した事業年度の法人税の確定申告書については、その修正の経理をした部分の利益を

   減少させて企業利益が表示されるので、その修正額は、申告調整(修正の経理により財務諸表に表示

   されている損失は、修正年度の損失ではないから、確定申告をする段階において、申告書上で当期の

   損金に算入しないものとして調整すること。)をして提出することになる。

 

 

(三)原告は、反対仕訳をしたことが修正の経理であると主張するが、原告の行ったような、架空の利益を

   計上した仕訳について、単に翌事業年度に逆の仕訳(逆の仕訳自体も修正事業年度の取引事実ではな

   いから誤りであり、前記のとおり「前期損益修正損」というように仕訳するのが当然である。)をす

   る方法では、決算書(財務諸表)上粉飾を修正した事実やその勘定科目は全く明らかでなく、結果的

   に、決算書上いずれかの勘定科目に修正が含まれているに過ぎない。また、洗替の方法で一旦反対仕

   訳を打って、また同様に仮装経理を行うのであれば、決算としては全く修正されていないといわざる

   をえない。

 

 

   そして、修正したという経理の結果のみが経常損益の部に掲げられた数字に含まれるだけでは、株主

   総会に決算をはかったとしても、株主には全く粉飾の事実がわからないのであり、これが承認された

   としても実質を伴わない形式だけの確定した決算に過ぎず、法129条2項の要件を充たさない。

 

 

(四)仮装経理金額の一部についてのみ修正の経理がなされた場合は、以下の理由により未だ減額更正すべ

   き場合にはあたらないと解すべきである。

 

 

   仮装経理金額の一部についてのみ修正の経理がなされた場合には、その一部についてのみ減額更正を

   行うと解すると、数期にわたり行われてきた仮装経理のうちどの部分が修正されたのか明らかとはな

   らないし、一部修正の都度減額更正を行うと考えることは、課税関係を著しく不明瞭ならしめるから

   採用できない。

 

 

   したがって、減額更正をするときには、仮装経理金額の全額について更正すべきこととなる。そし

   て、修正とはもともと「よくないところを直して正しくすること」であるから、一部が修正されたに

   とどまるのでは未だ修正の経理が行われたとはいえず、仮装経理金額の全額またはこれと同視しうる

   金額の修正が行われて初めて修正の経理に該当すると考えられる。

 

 

   本件では、仮に、仮装経理金額残高の前記末から当期末への減少額が修正の経理にあたるとしても、

   昭和58年4月期以前の仮装経理金額残高の減少額は、昭和56年4月期末の残高に比し、全額また

   はこれと同視しうるような修正の経理がなされたとは認められないから、減額更正すべきこととはな

   らない。