引き続き原告の主張を検討します。
前期末と当期末の仮装経理金額残高を比較して修正の経理の有無を判定するとしても、昭和57年4月期の確定申告の際には、次のとおり、修正の経理があったものである。
すなわち、原告は、仮装経理金額につき翌期の期首に反対仕訳をし、
さらにその期末になっても粉飾を継続する必要があるときには、改めて仮装経理金額を計上していた
(一般に「洗替」と称される方法である。)が、別表4記載のとおり昭和57年4月期の確定申告に当たって、初めて仮装経理金額の累計額を前年度より60,892,452円減額させることができ、昭和58年4月期の確定申告に当たってはさらに41,844,910円を減額させることができた。
したがって、仮に、前期末と当期末の架空取引残額を比較して修正の経理の有無を判断するという見解に立つとしても、
昭和57年4月期の確定申告の時点においては、修正の経理がなされていることとなり、税務署長は、右確定申告以降は、本件係争各期につき更正処分をする義務を負うことになる。
税務署長の違法行為と過失
(一)税金の過大申告がなされた場合、納税者がこの返還を求めるためには、税務署長に対し、国税通則法
(以下「通則法」という。)23条の更正の請求を行うことになるが、法人税の粉飾決算に係る過大
申告については、前記のとおり、法129条2項により「確定決算において当該事実に係る修正の経
理をし、かつ、当該決算に基づく確定申告書を提出する」ことが求められており、
この確定申告書を提出することは過大納税分の税額の還付を求めることになる点では、通則法による
更正の請求と同じ機能を持つことになる。
したがって、税務署長が、右修正の経理を経た確定決算に基づく確定申告書の提出を受けたにもかか
わらず、これを放置し、更正処分の除斥期間を徒過してしまい、過大納付税金の還付ができなくなっ
た場合、単に被告国が不当利得をしたというにとどまらず、税務署長が更正処分をしなかったことが
違法となるというべきである。
本件においては、原告が、阿倍野税務署長に対し、前記のとおり修正の経理を含んだ法人税確定申告
書を提出しているにもかかわらず、課税当局は、原告の本件係争各期の各法人税について、なんら適
切な指示あるいは処分をせず、更正処分を行うについての期間の制限(通則法70条2項、1項)を
失念して、漫然とこれを徒過したため、本件係争各期の各法人税についての更正処分を行うことが不
可能となったのであり、税務署長の右義務の懈怠は違法である。
(二)また、課税当局は、昭和56年8月、原告に対し、
昭和56年4月期の税務調査を行った際、原告から各粉飾及び反対仕訳の経理のすべての事実の開示
を受けており、
昭和57年9月の税務調査では、仮装経理金額の累計額が昭和56年4月期に比較して前記のとおり
減少したことにつき報告を受けたのであるから、税務署長には、右の義務の懈怠につき過失がある。