修正の経理(1)

 

 

 大阪地裁(二民)、平成元年6月29日判決、税務訴訟資料170号952頁を検討します。

 

 

 

 原告は,婦人・子供用下着、寝室着等の製造販売を営む内国法人である。

 

 

 原告は、昭和52年5月1日から昭和53年4月30日までの事業年度(以下「昭和53年4月期」という。以後の事業年度についてもこれにならった呼称を用いる。)から、粉飾決算をするようになった。 

 

 

 

 原告は、被告らに対し、昭和53年4月期及び昭和54年4月期(以下「本件係争各期」という。)の各法人税及び別表2(但し、大阪市に対する昭和54年4月期の市民税欄及び合計額欄に1,326,890円とあるのを1,417,080円に、福岡県に対する昭和54年4月期の都府県民税欄に44,770円とあるのを47,800円に、同期の合計額欄に287,530円とあるのを295,600円に、福岡市に対する昭和54年4月期の市民税欄及び合計額欄に104,690円とあるのを111,790円に、それぞれ訂正する。以下、右訂正を経た別表2を「訂正後の別表2」という。)記載のとおりの本件係争各期の各地方税(都府県民税、事業税、市民税。但し、都府県民税、市民税については均等割額を控除した。)をその納付期限までに、あるいは遅くとも右期限から1年以内にはそれぞれ納付した。

 

 

 

 以下原告の主張です。

 

 

 

 

 原告は、主として、在庫、売掛金を実際より増やす等の方法で粉飾を行いその翌事業年度の期首に、前事業年度に仮装した経理金額(以下、事実を仮装して経理することを「仮装経理」といい、仮装経理をしたことにより生じる金額を「仮装経理金額」という。)を帳簿上反仕訳した。

 

 

 昭和53年4月期から昭和59年4月期までの仮装経理金額累計額、反対仕訳金額、申告所得金額、正当所得金額についての事業年度別内訳は、別表4記載(但し、反対仕訳金額は、修正経理金額欄の記載)のとおりであり、同各期の反対仕訳による経理の詳細は、別表5記載のとおりである。

 

 確定した決算における経理と確定申告

 

 

 右反対仕訳を含む経理は、いずれも取締役会の議決を経て、株主総会の承認を得原告は、これに基づき、確定申告を行った。

  

 

 

税務署長の更正処分をなすべき義務について

 

 

(一)仮装経理に基づく過大申告の場合につき、法人税法(以下「法」という。)129条2項は、「税務

      署長は、当該事業年度の所得に対する法人税につき、その内国法人が当該事業年度後の各事業年度の

   確定した決算において当該事実に係る修正の経理をし、かつ、当該決算に基づく確定申告書を提出す

   るまでの間は、更正をしないことができる。」と規定して、右の期間につき、税務署長の更正処分の

   義務を解除しているが、「確定した決算において当該事実に係る修正の経理をし、かつ、当該決算に

   基づく確定申告書を提出」した以上、税務署長は、原則どおり右過大申告に係る課税標準等を更正す

   る義務を負うことになる。

 

 

(二)ところで、右規定の「修正の経理」(以下、この意味で「修正の経理」という。)は、反対仕訳を意

   味する。すなわち、右規定の修正の経理については、法令上なんらの定義も設けられていないし、

   税庁長官もこれにつき、解釈通達を発遺していないので、右修正の経理は簿記会計学からの借用概念

   であると判断すべきであるところ、簿記会計学上、修正の経理とは、反対仕訳しか考えられないから

   である。

 

   そうすると、本件係争各期を含む前記4の仮装経理金額については、いずれも反対仕訳がなされ、右

   反対仕訳に基づく経理は確定した決算を経ているから、確定した決算において修正の経理がなされた

   ものといえる。

 

 

   したがって、税務署長は、原告の本件係争各期の所得金額等につき更正処分をする義務を負う。