仮装経理損害賠償(4)

 

 平成10年1月,原告は,前橋税務署の担当官から,平成7年度の確定申告の各処理につき誤りがある旨の指摘を受けた。そのため,原告は被告に対し,その旨を連絡し,上記指摘に係る各処理に関連して,

 

〔1〕本件ワラント債売却損を平成3年4月期に計上しなかった理由,

 

〔2〕平成8年6月までに減額更正の請求をしなかった理由,

 

〔3〕平成8年4月期の申告で本件ワラント債の売却損の処理をした理由をそれぞれ質問する内容の照会書を

   送付した。

 

 

 

 被告は,

 

〔1〕決算書に添付の有価証券内訳書はJ常務(当時の原告会計責任者)に作成してもらったものを指示ど

   おりそのまま使用したもので,平成3年4月期に本件ワラント債売却損を認識できなかった,

 

〔2〕平成8年6月までに減額更正の請求を行えば平成8年4月期の税額が同額分増加することになる(更

   正の請求を行えば8年4月期の売却損計上は損金算入にならない),

 

〔3〕申告書に本件ワラント債売却損を加算しなかったのは損金であるとの認識である,旨を回答した。

 

 

 

 

 

 

 

 

本件土地に係る負債利子の損金算入について

 

 

 

ア 乙1,証人Aの証言,被告本人の供述,関連する法令等を総合すると,平成7年11月24日に原告が

  取得した本件土地に係る負債利子の損金算入に関する税務上の取扱いは,以下のとおりである。

 

 

(ア)法人税の課税所得の計算においては,法人が支払う借入金の利子は,原則として支払った事業年度の

   損金の額に算入することができるが,新規土地取得等に係る負債利子の課税特例が昭和63年に新設

   されたため(昭和63年12月31日以後に取得した土地等に適用),法人が各事業年度終了の時に

   おいて新規取得土地等を有する場合には,新規取得土地等に係る負債の利子は損金の額に算入されな

   い(租税特別措置法62条の2)。

(イ)負債利子の損金不算入期間は,新規取得土地等を取得した日から4年を経過するまでの期間である

   が,新規取得土地等が「長期間にわたって使用される建物又は構築物の敷地の用に供された土地等

  (これらの建物又は構築物と一体的に使用される施設の用に供される土地等を含む。)」に該当すると

   きは,取得の日から「その建物又は構築物がその用に供された日」までが損金不算入期間となる(租

   税特別措置法62条の2第3項2号イ)。

(ウ)そして,上記の「建物等と一体的に使用される土地等」の範囲につき,法人税基本通達では「建物等

   と機能的及び地理的な一体性を有して事業の用に供される施設の用に供される土地等をいう」旨が明

   らかにされ,これにつき更に「機能的一体性及び地理的一体性について,極めて限定的に解すること

   は,この課税制度の目的,趣旨,最近の都会地における土地事情等からみても実情にそぐわないと考

   えられる。…地理的一体性については,特定建物等の敷地と接していることまで要求するのではな

   く,特定建物等又はこれと一体的に使用される施設の用途又は使用目的に応じた一定の地区内での地

   域的概念として考えるべきである」との解説がされている。

 

 

イ 上記取扱いを本件土地の取得経緯や使用状況等に関する被告の調査結果に即してみると,原告が本件土

  地を取得した時点(平成7年11月26日)において,本件土地(c番d)は,当時の原告建材部事務

  所・倉庫(c番e及びc番f)の駐車場として利用されていたことに加え,平成8年4月以降には新た

  に原告が賃借する予定の新事務所・倉庫の所在地(c番g等)に隣接して引き続き駐車場として利用さ

  れることが見込まれていたというのであるから,被告の調査結果を前提とする限り本件土地は上記ア

 (イ)・(ウ)の要件を充たす余地があることは否定できない。したがって,本件土地に係る負債利子を

  損金に算入した被告の処理は,当時の調査結果を前提に法令や基本通達を踏まえた税務処理をして確定

  申告をしたものということができるから,たとえ後に原告がこれに関して更正処分等を受けることがあ

  ったとしても,原告に対する債務不履行を構成することはない。