仮装経理損害賠償(3)

 

 

裁判所の判断を検討します。

 

前橋地方裁判所平成10年(ワ)第483号、平成14年6月12日判決

 

 

 

 

 

 

 被告は,昭和46年に税理士登録をし,昭和53年4月ころ,原告の前代表取締役B(故人)から依頼を受けてその税務顧問となり,平成5年8月まで5万円,同年9月以降は6万5000円の顧問料(消費税別)を受領していた。また,被告は,原告の各事業年度(5月1日から翌年4月30日まで)の税務申告手続を行い,申告手数料(消費税別)として毎年約60~70万円を受領していた。

 上記顧問契約は,平成9年2月13日に,原告から被告に対し,同月末日をもって顧問契約を解除する旨の通知がされたことによって解約された。

 

 

 

 

 

 被告は,平成7年1月ころ,Bの妻Cから,原告建材部の駐車場用地として本件土地を購入する予定がある旨を告げられ,その後,本件土地付近の現場を検分・調査したが,それによると,本件土地等の取得経緯,使用状況は次のとおりであった。

 

 

ア 原告は,かねてより,前橋市a町b丁目c番e所在(以下,前橋市a町所在の土地・建物はその地番の

  みを表示する。)の事務所,c番e及びc番f所在の倉庫(いずれもD所有)を建材部事務所・倉庫と

  して利用していた。

 

イ その後,その隣地である同番g等の土地上に,Eが代表取締役を務める株式会社Fにおいて新たに事務

  所・倉庫を建築することとなり,原告は平成8年3月1日からこれを賃借する予定でいたが,これに先

  立ち事務所駐車場を確保するために,Gから,平成7年11月24日,c番g等の土地に接する本件土

  地(c番d)を買受けて取得した。

 

 

 

 

 

 被告は,例年,決算期後1か月以内の5月中に決算修正仕訳(1次)を原告の経理責任者から受け取り,被告が原告事務所に約1週間程度赴いて決算整理事項チェックリストを利用しながら,原告の経理責任者から資料につき説明を受けつつ,建材卸売り(販売)と不動産賃貸(管理)の各部門の決算仕訳(2次)を確定する作業を行い,その後更に原告から提出される工事部門の集計を取りまとめることによって決算書を確定させていた(3次)。

 

 

 

 しかし,平成8年5月ころ以降,原告の役員間で役員の更迭をめぐる交渉が続き,同年6月15日にこれにようやく関する和解が成立し,同日,原告の経理責任者(H課長,後に退社)から後任(I)に,平成7年度決算に関する修正仕訳(1次)が引き継がれるに至った。その際,上記資料によって,平成2年7月の本件ワラント債売却という仕訳がされていた事実が初めて判明した。

 

 

 

 そこで,被告は,後任の経理責任者(I)に事実確認を依頼し,同人から証券会社に照会がされた結果,平成8年6月19日,山一証券前橋支店から平成2年7月16日に大平洋金属のワラント債が売却されていた旨の回答があり,同回答は翌20日,被告に伝えられた。また,昭和電工ワラント債についても同様に確認が進められ,同月24日,被告に,平成2年7月17日に売却済みである旨の新日本証券高崎支店による照会回答結果が伝えられた。

 

 

 

 なお,この間,被告は,原告の経理担当者に対して,減額更正の期間が平成8年6月30日までであることを説明した上で,早急に調査をするよう指示することはなかった。

 

 

 

 被告は,平成8年6月28日,前記争いのない事実等(2)の各処理をした確定申告書及び決算報告書を取りまとめて原告代表者の承認印の押捺を受けて,平成7年度の申告期限である同年7月1日,前橋税務署にこれを提出した。なお,これまでの間,被告は,本件ワラント債売却損につき減額更正の請求をする方法があり得ることを原告の経理担当者や代表者に説明したことはなかった。