粉飾決算の修正経理に伴う減額更正の期間制限(4)

 

 

 最高裁判所(第一小法廷)昭和六三年(行ツ)第一八八号 平成元年四月一三日言渡では、裁判官全員一致の意見で、棄却されました。

 

 

 

 

上告理由書の内容は以下の通りでした。

 

 

 

 上告人の本訴請求は、昭和四九年七月期、同五〇年七月期の欠損金を無視した昭和五六年七月七日の昭和五四年七月期の本件更正は違法で取消されねばならないことにある。しかるに、原判決は被上告人の主張のとおり昭和五六年七月七日においては昭和四九年七月期、同五〇年七月期は国税通則法第七〇条二項の五年を経過しているので、減額更正処分を行うことはできないということにある。

 

 しかし、本件のような場合、昭和五六年七月七日には右五年間は未だ経過していないと解すべきである。

 

 けだし、国税通則法第七〇条二項は、法的安定性を保つため、五年の除斥期間を設けたものであるとしても、

 

 納税者側において,その期間に減額すべき要請があれば、要請等の期間中は一時停止すべき、換言すれば、右五年の期間に全くなんらの減額要請等争いの要素がない場合のみ適用すべきであり、

 

 本件のごとき当初から一連の不可分の事案として上告人・被上告人共に取扱い臨んでき、さらに更正(職権の発動)を要請している状況にあつては、更正の時点で五年以上経過していても五三年当時五年以内であるので、納税者のために更正されるべき筋合である

 

 

 本件は、被上告人の過失による除斥期間の徒過が二度に渉りあるのである。

 

 すなわち、上告人が被上告人に対し更正の要請をなした昭和五三年の翌年末頃には、昭和四九年、同五〇年の両期の損失額の実態解明はできていたことであるのであるから直ちに更正をすれば右期間の制限に抵触しないし、また、昭和五五年九月二〇日の報告後直ちに更正すれば少なくとも昭和五〇年分は抵触しなかつたのである。

 

 しかるに、更正が行政庁の都合により昭和五六年に遅れたため、不相当な結果(更正が遅れることによつて納税者に不利益を課する結果)になつているのである。

 

 

 

 

 

 納税者自身その誤りを発見した場合、減額更正の請求ができるのは、申告期限後一年以内となつており、それ以上の期間経過した場合には納税者側からその是正を行政庁に権利として請求する方法がない。

 

 したがつて、青色申告制度が五年以内の繰越欠損金額の損金算入(法人税法第五七条)を認めてはいるが、納税者自身その誤りを発見しても行政庁自身が腰をあげて職権で減額更正しなければ、青色申告の繰越欠損金の損金算入は不能となり青色申告制度は勿論、法人税法の本来的な課税所得の計算構造自体否定する結果となるのである。

 

 であるから、法人税法の青色申告繰越欠損金額の損金算入は、当該損金算入年度分の更正自体が国税通則法第七〇条二項に抵触しないかぎり前五年間分はその更正と一体となつて更正できることが当然の前提になつていると解して始めて法人税法に規定する青色申告の繰越欠損金損金算入制度の意義がある

 

 

 

 

 

 

 全て更正の時点から起算するとすれば、遅く調査に着手し、更正処分までの調査期間をことさら長くして、そのため減額更正の期間を次々と徒過し、これによつて法人税法が実体的に予定している課税額を形式的な通則法によつて不当に過大にさせて納税者に不利益を強いることは法の正義に著しく反する。

 

 

 

 

 当初年度としての昭和四九年七月期および同五〇年七月期はきわめて内容的に簡単なもので、だからこそ昭和五四年暮れには判明していたのである。

 

 このような事案では、過年度の計算の影響が次々に重なつて及んでくる後年度ほど複雑で困難になるものであつて、昭和五一年以降が調査に手間どつたのである。

 

 昭和五四年暮れに昭和四九年七月期、同五〇年七月期を被上告人に資料持参のうえ説明しようとしたところ、被上告人は五年間を一連のものとして順次更正しなければ、昭和五四年度分の更正はできず、そのことのみを考えていて繰越欠損金の損金算入の時期の件についてまでは思慮が及ばず、そのためにこれを遮り全部終わつてから説明を受けると言われたのである。

 

 

 

 

明らかに実体的に納税義務のない欠損金部分について敢えて課税することは、本来的には憲法違反である。

 

 

 

 

 

 

 納税者は五年分の正当な計算を明らかにする努力をしても、自ら減額更正請求ができず、唯々行政庁の更正減を待つのみの法構成となつており、このような場合には特に行政庁の納税者の権利を尊重する法の運用が義務付けられているというべきである。

 

 

 

 繰越欠損を減額更正せず、国(政行庁)が不当の税収を果たすことは憲法第一一条の基本的人権、同第二九条の財産権を侵すものでかかることを可能にさせている国税通則法第七〇条(国税の更正決定等の期間制限)及び第二三条(更正の請求)の規定の一部(一方は五年、他方は一年という不平等な規定)は憲法違反である。