粉飾決算の修正経理に伴う減額更正の期間制限(2)

 

 

 新潟地方裁判所(第一審)( 昭和62年 6月25日)では以下のように判示されました。

 

 

 

 

 

 

 原告は、本件事業年度分の確定申告書の添付書類である損益計算書における特別損益の部において、整理特別損失として九億四二九八万五八四六円を計上していたが、このうち九億三七七七万五八四六円は、過去の事業年度において受取手形、売掛金、たな卸資産等を過大計上し、支払手形、買掛金、預り金等を過少計上していた金額を当期において修正の経理をしていたものであることが認められる。

 

 右のような所得金額の過大申告分は、当該事業年度の損金として認められるものであつて、本件事業年度分の損金としては認められないものであるから、被告が本件更正処分において九億三七七七万五八四六円を所得金額に加算したことは正当である。

 

 

 

 

 被告は、昭和五六年七月七日、原告の各事業年度の所得について、昭和五一年七月期については、一億二三〇五万七〇五二円、昭和五二年七月期については三億九三四〇万一八一六円、昭和五三年七月期については二億八四二三万四四七九円の減額更正処分を行つた。

 

 そして、このとおり本件事業年度前の各事業年度分について減額更正処分があつたので、本件事業年度分の所得金額の計算上損金の額に算入される繰越欠損金額が八億〇〇六九万三三四七円となつたので、被告は、原告が本件事業年度分の確定申告において既に損金に算入していた繰越欠損金五七一八万四一六七円を超える七億四三五〇万九一八〇円も繰越欠損金として認容し、所得金額から減算して本件更正処分を行つた。

 

 

 これに対して、原告は、原告の各事業年度における所得の過大申告金額としては、昭和四九年七月期の八九八一万七一一三円及び昭和五〇年七月期の五二九九万一〇〇四円もあるのだから昭和四九年七月期及び昭和五〇年七月期についても減額更正処分を行い本件事業年度の繰越欠損金に算入すべきであると主張し、

 

 

 被告は、本件更正処分を行つたのは昭和五六年七月七日であり、昭和四九年七月期及び昭和五〇年七月期については国税通則法七〇条二項の五年の除斥期間に抵触して減額更正処分を行うことはできず、昭和四九年七月期及び昭和五〇年七月期において生じた欠損金額はないから、本件事業年度の繰越欠損金の計算上昭和四九年七月期及び昭和五〇年七月期の所得の過大申告金額を考慮することはできないと主張する。

 

 

 

 

 

 本件更正処分が行われたのは昭和五六年七月七日であり、この時点においては昭和四九年七月期及び昭和五〇年七月期については国税通則法七〇条二項が規定する五年の除斥期間に形式的には抵触することになる。

 

 

 

 

 

 原告は、青色申告の繰越欠損金控除の規定の意義を考慮すれば、当該控除年度の更正自体が国税通則法七〇条二項に抵触しない限り前五年度分は更正できることが当然の前提になつていると主張する。

 

 しかし、本件の場合のように過去の事業年度について減額更正処分を行うことによつて当該控除年度の繰越欠損金が増額されるという場合には、過去の事業年度の減額更正が国税通則法七〇条二項の規定に抵触しない場合に初めて当該控除年度の繰越欠損金の額を更正できるのであり、原告の主張は独自の見解であり、採りえない。

 

 

 

 次に、原告は、国税通則法七〇条二項が規定する五年の期間内に、納税者が減額更正のための調査に着手した場合若しくは納税者が税務署長に対し減額更正を求める意思を明らかにして具体的に減額更正のための調査活動を開始した場合または税務署長の了解ないし要請に基づいて納税者が減額更正のための具体的な調査活動を開始した場合には、同項の期間制限に触れないと解すべきであると主張する。

 

 

 そこで、国税通則法七〇条二項二号の立法趣旨を検討するに、同号は租税法律関係の早期安定をはかるために減額更正を五年間の除斥期間に服するものとしたものであると解される。このように同号は除斥期間を定めたものであるから、消滅時効の場合とは異なり中断事由を認める余地はなく、原告が主張するような事由がある場合には一般的に同号の期間制限には触れないと解することはできない。