更正の請求の可否(1)

 

 

 原告は、スチール家具等の製造販売を業とする株式会社であって、昭和四三年一月一三日株式会社名工金属製作所を吸収合併したものである。

 

 名工金属は、昭和四〇年八月一日から昭和四一年七月三一日までの事業年度及び昭和四一年八月一日から昭和四二年七月三一日までの事業年度の法人税について、

 

 青色申告書によりそれぞれ別表記載のとおり確定申告をしたところ、

 

 被告は、昭和四三年五月二八日名工金属の昭和四〇年度以降の事業年度について

 

 青色申告の承認を取り消したうえ

 

 名工金属を吸収合併した原告に対し、同年八月三一日、右各年度の法人税について別表記載のとおり再更正及び昭和四〇年度につき無申告加算税の賦課決定を、昭和四一年度につき過少申告加算税の賦課決定をした。

 

 

 

 原告は、名工金属は昭和四〇年一月下旬頃倒産し、本件係争各年度においては実質的な営業活動は行つておらず、営業活動の主体は原告であつたから、被告の更正に係る右各所得は原告に帰属するものであつて、名工金属に帰属するものではないと主張した。

 

 

第1審では、

 

 

 

 更正通知書に更正の理由附記を欠いても、かかる瑕疵は、処分を無効ならしめる重大な瑕疵ということはできず、単に取消事由となるにすぎないというべきである。

 

 

 

また、名工金属は、

 

 取引先の倒産により資金繰りが悪化し、昭和四〇年二月倒産したが、直ちに原告が設立されたこと、

 

 原告と名工金属とは営業目的を同じくし、本店を同一場所に置き、実質上同一人が経営する同族会社で、原告は、いわゆる名工金属の第二会社であつたこと、

 

 したがつて名工金属倒産後の営業の主体が名工金属であるか原告であるかは必ずしも判然としていなかつたこと、

 

 名工金属は、被告に対し、昭和四一年一〇月一一日昭和四〇年度の確定申告書を、昭和四二年九月三〇日昭和四一年度の確定申告書をそれぞれ提出しているが、

 

 右各申告書には各年度の貸借対照表及び損益計算書が添付されており、右各貸借対照表には売掛金及び買掛金が計上され、右各損益計算書には売上金額や売上原価が計上されていること、

 

 他方、原告が被告に最初に確定申告書を提出したのは、昭和四一年八月一日から昭和四二年七月三一日までの事業年度についてであるが、

 

 同確定申告書備考欄には「当期営業活動なし」と明記され、

 

 かつ添付の貸借対照表には、借方に貸付金一〇〇万円、貸方に資本金一〇〇万円がそれぞれ計上されているのみで、

 

 売掛金及び買掛金の記載はなく、損益計算書は添付されていないこと、被告の更正に係る前記各所得金額は、被告が昭和四二年一二月から名工金属に対し行つた法人税調査に際し、名工金属から提出された収支明細表等に基づいて算出したものであること。

 

 以上の事実が認められるから、名工金属が営業活動をしていなかつたということはできない。

 

 本件各更正のうち、被告が前記各所得を名工金属の所得と認定してした部分に、原告主張の瑕疵はないといわなければならない。

 

 

 

 メーコー工業が昭和四〇年一二月一五日名工金属に対し本件債務免除をしたこと、被告が名工金属の昭和四〇年度の所得金額の計算上本件債務免除に係る金額を益金として昭和四〇年度更正をしたことは,当事者間に争いがない。

 

 

 原告は、本件債務免除は名工金属の負債の減少、欠損金の填補のため債権者集会の協議を経てされたもので、資本の減少に準ずるものであるから、本件債務免除に係る金額は名工金属の昭和四〇年度所得金額の計算上益金に計上すべきでないと主張する。 

 

 

 しかしながら、債務免除は、その動機ないし目的のいかんを問わず、法人税法第二二条第四項にいう資本等の金額の増加又は減少を生ずる取引に該当しないことは、明らかであるというべきである。

 

 

 また、一般に公正妥当と認められる会計処理の規準を要約したものと考えられる企業会計原則は、企業本来の活動に基づく利益以外の財産の増加は、これを広く資本とみる立場から、資本補填を目的とする債務免除益を資本剰余金に区分しているけれども、

 

 元来、法人税法においてはこのような資本剰余金は資本等の金額に含まれない(同法第二条第一六号、第一七号)のであるから、債務免除が同法第二二条第四項の「資本等取引」に当たることはない。

 

 

 したがつて、本件債務免除に係る金額は、名工金属の昭和四〇年度の収益として所得金額の計算上益金に計上するのが相当である。

 

 

 

 

 原告は、被告のした昭和四〇年度更正には、法人税法第五七条に基づく繰越欠損金の損金算入がされておらず、したがつて、右更正のうち、原告の同年度の所得金額から同条に基づく繰越欠損金額を控除した金額をこえる部分は無効であると主張する。

 

 

 名工金属の昭和三九年度において、前事業年度の控除未済欠損金一二〇七万三二四九円、当期欠損金一六〇一万四四三三円の各欠損金が存したこと、名工金属は右各欠損金の生じた事業年度である昭和三九年度及びその前事業年度について青色申告書である確定申告書を提出していることは、当事者間に争いがない。

 

 

 また、被告が昭和四九年九月六日本件取消処分をしたことは前記のとおりであるから、原告は昭和四〇年度についても青色申告の承認を受けたものとして、被告に対し、青色申告書である確定申告書を提出していたことになるというべきである。

 

 

 そうすると、前記各欠損金合計二八〇八万七六八二円に相当する金額は、法人税法第五七条第一項の規定により名工金属の昭和四〇年度の所得金額の計算上損金の額に算入しなければならないものというべきところ、

 

 被告が、昭和四〇年度において名工金属は青色申告者でなかつたことを理由に、右繰越欠損金の損金算入を認めなかつたことは当事者間に争いがない。

 

 したがつて、昭和四〇年度更正のうち、原告の同年度の所得金額から右各欠損金合計額を控除した一三九万五二六四円をこえる部分は、所得金額を過大に認定した瑕疵があるというべきであり、しかも、右瑕疵は重大であると解するのが相当である。

 

 

 ところで、青色申告の承認を取り消されたことを前提として更正が行われ

 

 その後右青色申告の承認の取消しに瑕疵があるとして課税庁が右処分を取消したため

 

 更正に重大な瑕疵が生じた場合において、

 

 その瑕疵が明白かどうかは

 

 更正に瑕疵が生じた時点、

 

 すなわち青色申告の承認の取消しが取り消された時点において判断するのが相当である。

 

 けだし、この場合において、更正の瑕疵は後発的に生じたものであるから、更正時においてその瑕疵が明白であつたかどうかを論ずることは意味のないことであるし、また、もし、被告の主張するように、瑕疵の明白性は常に処分時を基準に判断するものとすると、右のような場合においては、瑕疵の明白性は常に否定され、かくては、更正に対する取消訴訟の出訴期間経過後において青色申告の承認の取消しの取消処分が行われ、その結果更正が重大な瑕疵を帯びることとなつても、被処分者は救済を受けえないという不当な結果を招来するからである。

 

 

 本件についてみると、名工金属が被告に提出した昭和三九年度及び昭和四〇年度の各確定申告書添付の明細書には前記欠損金の記載がされていることが認められ、昭和三九年度及びその前事業年度について名工金属が青色申告書である確定申告書を提出していたことは当事者間に争いがないから、本件取消処分の存在により名工金属が昭和四〇年度においても青色申告書である確定申告書を提出したこととなれば、法人税法第五七条の規定により前記欠損金の損金算入を認めなければならない案件であることは、あえて課税庁の認定判断をまつまでもなく、何びとにも客観的に明らかであつたといわなければならない。

 

 そうすると、昭和四〇年度更正のうち、課税標準一三九万五二六四円をこえる部分は無効であり、したがつて、右更正に附随してされた無申告加算税賦課決定のうち右更正の無効部分に対応する部分も無効である。

 

 

 そして、昭和四〇年度更正及び無申告加算税賦課決定のうち、右判示の無効部分を除くその余の部分については、原告の請求原因の点について判断するまでもなく、原告主張の瑕疵は存在しないというべきであり、昭和四一年度更正及び過少申告加算税賦課決定に原告主張の瑕疵が存在しないことは、既に判示したところから明らかである。

 

 

 

 

 

 

 と、一部認容、一部棄却されました。