磐梯観光事件(5)

 

 

 上告は全員一致で棄却されました。

 

 

最高裁判所 (第三小法廷)昭和五七年(行ツ)第三六号 昭和六〇年九月一七日判決

 

 

 

 

 

 上告人の理由書の主張は以下の通りでした。

 

 

 

 

 

 法人税法施行令第七二条によれば、右不相当に高額な部分とは、「法人が各事業年度においてその退職した役員に対して支給した退職給与の額が、当該役員のその法人の業務に従事した期間、その退職の事情、その法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況などに照らし、その退職した役員に対する退職給与として相当であると認められる金額をこえる場合におけるそのこえる部分の金額をいう」と規定されているが、その判断基準としては、右の三点だけでなく、諸般の事情を勘案して判断すべきことは、会社の事情が千差万別で、それぞれ相異なることからみても当然である。

 

 

 

 

 

 

 (税務署の)(筆者挿入、以下同じ)調査会社数は、当時推定される全国の株式会社数九〇万社のおよそ五〇〇分の一程度の数であって、これらの調査結果を他の会社の基準とすることは、一班を見て全豹を卜すの誤りを招くから、世人を納得させる調査方法ということができず不当である。

 

 

 

 

 最終報酬月額を基礎にしたり、あるいは、これを算定の基準にすることは極めて不当である。

 

 

 

 

 上告人会社のように小さな不動産業者にあっては、毎事業年度安定した収入を得られるとは限らないので、定期的な役員報酬に右の収入額を反映させることができず、一般に役員報酬が低額に押えられている。

 

 

(税務署の調査件数は)僅か六〇四社だけの調査にすぎず、又、具体的に退職給与の支給を受けた役員は、一三人にすぎないのであるから、客観的な選定基準とはなり得ず、到底世人を納得せしめるものではない。

 

 

 比較法人の功績倍率の最高値を基準として退職給与金額の相当性を判断することが合理性を有するのかは理解に苦しむ。

 

 

 税務当局が独自に把握した退職金支給事例を無理に上告人会社に対する役員退職金の数値にあてはめているのは、世人を納得させるものではなく不当である。

 

 

 裁判所がどうして功績倍率に固執するのかは誠に疑問なところである。

 

 

 

 上告人会社が設立された昭和四六年一一月一五日から昭和四七年九月三〇日までの第一期事業年度の申告所得金額が金二、一九二万三、三二三円であることは、被上告人も認めているところである(第一審判決の請求原因一の1に対する被告の認否二の1および別表一参照)。

 

 資本金は僅か金五〇〇万円、従業員数も少なく、かつ事業規模の小さな上告人会社が、設立後最初の事業年度(実質一〇ケ月半)において、右のように約二、〇〇〇万円もの所得をあげ得たのは、退職役員らの上告人会社設立前の準備活動の結果に負うところが大きいのである。

 

 

 

 このように設立直後に多大の利益を取得できた上告人会社は、一種の財産的価値を設立に際して取得したものということができる。

 

 この一種の財産的価値は、企業が「のれん」を取得するのと同様な意味、即ち「一種ののれん的役割」を果たし企業の収益率を増大させるものである。

 

 退職役員らの準備活動と、設立後の上告人会社の大きな収益との間には、顕著な因果関係が存在することは極めて明白である。

 

 これは退職役員らの上告人会社の業績に対する貢献の度合いとして、退職金算定の際に考慮されるべき重要な要素の一つである。

 

 「のれん」という一種の財産的価値を取得する対価が経費となると同様に、「一種ののれん的役割」を有する退職役員らの準備活動の結果という財産的価値に対価を支払う義務があり、この対価は、本件の場合、退職金として経費性が認められるべきである。

 

 

 

 

 

 

 

 上告人会社が退職役員らの設立した磐光開発株式会社と土地委託販売契約を締結した経緯は以下のようなもので、原判決の判示するように、「収益とその分配を企図しての離合集散」が行なわれた訳ではない。

 

 

 即ち、上告人会社は当時群馬県吾妻郡吾妻町大戸所在のオードランド別荘地および茨木県小川町所在のみのり台団地を分譲中であったが、一時に大森保ら役員五名に辞任されたため、右販売業務に重大な支障を生じた。そこで、上告人会社は、右退職役員らが設立した株式会社に前記土地の販売を委託したのであって、右委託販売契約は、上告人会社の代表者から「会社を建てなおす迄協力してくれ」と大森保らに懇請があり締結されたものである。

 

 

 従つて、右委託販売は、あくまでも上告人会社の販売業務の一時的な支障を避けるために行なわれたものであって、委託販売の目的物件は、前述のオードランド別荘地およびみのり台団地に限定されており、また、委託販売期間も昭和四七年八月二六日より同年一二月二〇日までの約四ケ月間だけと限定されていたのである。

 

 偶々、退職役員らが設立した会社が上告人会社と同一営業目的を有する不動産会社であることをとらえて、「収益とその分配を企図しての離合集散」と判断する原判決は、明白な誤りをおかすものである。