磐梯観光事件(1)

 

 

 原告は昭和四七年八月二五日に退職した取締役大森保(以下「大森」という。)同宮内国男(以下「宮内」という。)同八重畑素弘(以下「八重畑」という。)及び監査役坂本一夫(以下「坂本」という。)に対する退職金各一、五〇〇万円を未払金として本件事業年度の損金の額に算入した。

 

 税務署は当該退職金の一部を損金不算入とし、過少申告加算税の賦課決定並びに更正(以下「本件更正」という。)及びこれに伴う過少申告加算税の賦課決定(以下「本件決定」という。)を行った。

 

 

 

 

 

 

 

 税務署の主張

 

 大森については六〇万円、八重畑については三〇万円、宮内及び坂本については各四五万円を超える部分合計五、八二〇万円は、

 

 法人税法第三六条及び同法施行令七二条に規定する過大な役員退職給与に当るというべきである。

 

 すなわち、 法人税法第三六条の「不相当に高額な部分の金額」とは、同法施行令第七二条の規定により、その退職給与の額が当該役員の業務従事期間、退職事情、同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員退職金の支給状況等に照らし相当であると認められる金額を超える部分をいうものとされているから、

 

 原告の支給した役員退職金が過大であるかどうかについては、原告と同種の事業を営み、

 

 かつ、

 

 同程度の事業規模を有する法人の役員退職金の支給事例を抽出して、

 

 これら役員退職金の額が当該役員の退職時における報酬月額に勤続年数を乗じた金額にいかなる倍率(以下この倍率を「功績倍率」という。)を乗じたものであるかを求め、この功績倍率を基準として判断するのが前記法令の規定の趣旨からみて合理的というべきである。

 

 

 そこで、被告が原告と同じ下谷税務署管内並びに原告と同種の事業を営む法人の比較的多い麹町、神田、京橋及び豊島の各税務署管内の同業種法人で資本金額が五、〇〇〇万円以下の六〇四法人について調査したところ、

 

 その事業規模等が比較的類似する法人で昭和四六年一一月一五日から同四七年一二月三一日までの期間に役員退職金を支給していた法人(以下「比較法人」という。)は七法人で、その支給対象となつた役員は一三名であつて、その退職給与の支給状況及び功績倍率等は別表三記載のとおりである。

 

 これによれば、功績倍率の平均は一・九、最高は三・〇であり、

 

 右数値は本件更正当時の全上場一、六〇三社の実態調査の結果から算出される功績倍率の平均が社長三・〇、専務二・四、常務二・二、平取締役一・八、監査役一・六であるところからみて相当な基準といえるものである。

 

 

 そこで、原告に最も有利となる比較法人の功績倍率の最高値である三・〇をもつて相当とし、この倍率に基づき前記退職役員に対する退職給与の相当額を算出すると別表四記載のとおり大森については六〇万円、宮内及び坂本については各四五万円、八重畑については三〇万円、合計一八〇万円となる。

 

 

 従つて、各退職役員に支払われた退職金の合計額六、〇〇〇万円のうち、右一八〇万円を超える五、八二〇万円は過大な役員退職給与に当たるというべきである。

 

 

原告の主張

 

 役員退職給与の相当性を判断するにあたり、

 

 被告主張のように同業種、類似規模の法人について算出した功績倍率を用いることは一般に是認されていないのみならず、

 

 仮に同業種、類似規模の法人の退職役員について算出した功績倍率を用いるとしても、

 

 原告のように設立後間もない法人の場合は役員の貢献の度合は未知であつて、それを報酬中に折り込むことは不可能であるから、

 

 退職金額の算定にあたつてはこの点を考慮すべきであるし、

 

 また、

 

 退職役員の法人設立前の準備活動の結果法人設立後直ちに大きな収益をあげた場合には、

 

 右準備活動も退職金額の算定にあたつて考慮すべきであるから、原告と同様に設立の日の属する事業年度において多額の利益をあげた法人の功績倍率と比較するのでなければならない。