上野事件(3)

 

 

 

第1審の判断は以下の通りでした。

 

 

大分地方裁判所平成17年(行ウ)第13号

 

 

 

 

 相続税法は,相続税の課税財産の範囲を「相続又は遺贈により取得した財産の全部」(2条1項)と定めているところ,相続税法上の「財産」とは,これを課税価格に算入する必要上,金銭的に評価することが可能なものでなければならない。

 

 

 そうすると,相続財産は,金銭に見積もることができる経済的価値のあるすべてのものをいい,既に存在する物権や債権のほか,未だ明確な権利とはいえない財産法上の法的地位なども含まれると解するのが相当である(相続税法基本通達11条の2-1参照)。

 

 

 また,相続税の納税義務の成立時点は,「相続又は遺贈による財産取得の時」(国税通則法15条2項4号)であるところ,

 

 相続人は相続開始の時から被相続人の財産を包括承継するものであり(民法896条),

 

 かつ,

 

 相続は死亡によって開始する(民法882条)から,納税義務の成立時点は,原則として,相続開始時すなわち被相続人死亡時である。

 

 このように,相続税法上の相続財産は,相続開始時(被相続人死亡時)に相続人に承継された金銭に見積もることができる経済的価値のあるものすべてであり,

 

 かつ,

 

 それを限度とするものであるから,相続開始後に発生し相続人が取得した権利は,それが実質的には被相続人の財産を原資とするものであっても相続財産には該当しないと解すべきである。

 

 

 

 

 

 一般に抗告訴訟における取消判決の形成力に遡及効が認められるのは,

 

 瑕疵のある行政処分を遡及的に失効させることによって,

 

 国民の権利利益に対する違法な侵害状態を排除することを目的とするものであって,

 

 そのことから直ちに,更正処分取消訴訟における取消判決が確定した場合に,

 

 過納金の還付請求権自体が納付時に遡って発生するとは解されない。

 

 

 

 過納金を還付する場合に付される還付加算金は,

 

 違法に財産権を侵害された納付者に対する調整ないし救済措置として国税通則法によって定められたものであり,

 

 それが認められるからといって過納金の還付請求権が国税の納付時に遡って発生したと解する理論的根拠とはならず,

 

 むしろ,

 

 還付加算金の起算日を法定したのは,不当利得につき利息を付すのを受益者悪意の場合に限定する一般不当利得の法理を修正した結果である

 

 

 

 相続税法が,被相続人に支給されるべきであった退職手当金等が,被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものの支給を受けた場合に限って相続財産として扱い(3条1項2号),

 

 その期間を過ぎて支給が確定した退職手当金等は,相続人の一時所得として扱われることと同様ということができる。

 

 すなわち,支給の趣旨は同一であっても,それが支払われた時期によって,課税上は性質の異なるものとして捕捉することが法律上許容されているのであり,

 

 還付金についても,本来的には納付者本人の財産として扱うのが相当であるが,それが納付者の相続開始後に発生した場合には,相続人の新たな収入金額として扱うことも格別不合理ではないというべきである。

 

 

 

 公定力により行政処分はそれが権限ある機関によって取り消されるまでは有効と扱われるから,こうした公定力が排除される以前の段階では,過納金の還付請求権も将来発生しないものとして扱われることになる。

 

 そうすると,更正処分取消訴訟の原告たる地位は,取消判決が確定する以前の段階では,財産法上の法的地位ということもできず,金銭に見積もることができる経済的価値のあるものとして評価することはできないというべきである。

 

 

 

 相続税法は,国税通則法に基づく更正の請求の特則として,相続開始後に生じた一定の事由に基づいて申告又は決定に係る課税価格及び税額が過大となった場合に,更正の請求をすることを許容しており(同法32条,同法施行令8条),D意見書も,これらの規定を引用して,申告時の評価額を暫定的なものとし,その後の事情変動により価額が明確となった場合の調整が認められる旨述べている。

 しかしながら,同法32条,同法施行令8条に規定される後発的事由は,相続人の異動が生じた場合や,共同相続人間又は相続人以外の者との間において,相続財産の帰属に変動が生じた場合等であり,個々の相続財産の価額に変動が生じた場合は含まれていない。したがって,これらの事由に基づき更正の請求を行う場合であっても,算定の基礎となる評価額は相続開始時のものが用いられることとなる。