本件の争点は,本件過納金の還付請求権が,Aの相続財産を構成し,相続税の対象となるかどうかである。
被告の主張の骨子
抗告訴訟における取消判決は遡及効を有しているから,
別件所得税更正処分は,同処分の取消訴訟の判決確定により当初から存在しなかったことになる。
そうすると,観念的には,Aが別件所得更正処分に基づき納付した時点に遡って,本件過納金の還付請求権が発生していたということができる。
また,本件過納金は本来Aに還付されるべきものであるが,
これが原告に還付されたのは,原告がAの財産を相続したことをその理由とするのであり,
この相続がなければ,本件過納金が原告に還付されることはなかったのである。
すなわち,原告は,還付金を受けるべき地位を承継したのであり,たとえその発生時期が相続開始後であるとしても,本件過納金の還付請求権は相続財産を構成するというべきである。
さらに,本件過納金の還付請求権は,所得税又は相続税のいずれかの課税対象となるべきものであるところ,本件過納金はAが有していた財産を原資として納付された金銭(過納金)であり,取消判決の確定により,それが当初から逸出しなかったことになるにすぎないから,仮にAが生存しており同人に還付された場合には,これを一時所得又は雑所得の収入金額として発生したとみるべき事実が認められず,所得税の課税対象とはならない。
こうした本件過納金の還付請求権の性質は,相続という偶然の事情によって左右されるものではなく,Aの納付により減少した相続財産が,納税義務が消滅して本件過納金が発生することにより回復されるだけなのであるから,これを原告の所得とみることはできない。したがって,本件過納金の還付請求権はAの相続財産を構成するというべきである。
原告の主張の骨子
行政処分に公定力を認める論理的帰結として,
本件過納金又はその還付請求権は,
別件所得税更正処分取消訴訟の取消判決確定によって初めて生じると解するほかなく,Aの相続開始時には存在していなかったものである。
したがって,本件過納金の還付請求権は,原始的に原告に帰属するものであり,
Aの相続財産を構成するものではない。
被告がその主張の根拠とする取消判決の遡及効は,
判決の拘束力(行政事件訴訟法33条)によって原状回復義務が課される結果,
更正処分がなかった状態まで回復するというにすぎず,
還付請求権が遡及的に生じていたということにはならない。
また,所得税法の通説的解釈によれば,
原告の本件過納金の還付請求権の取得は,
原告の純資産の増加の起因となる外からの経済的価値の流入,
すなわち収入金額に算入すべき金額に該当する。
したがって,当該収入は所得税法36条の収入金額を構成すべきものであり,その収入は相続税又は贈与税の課税対象となるものではないから非課税所得(所得税法9条1項15号)には該当せず,その結果,当該収入は所得税の課税対象となるのである。
以上のことから,原告が相続により取得したのは,
「訴訟上の原告の地位を法的な訴訟承継手続により取得することができる地位」
という事実上の地位に過ぎないことになるが,取消訴訟の訴訟物は処分の違法性一般であるから,その地位を他に譲渡して換価することはできない。
したがって,当該地位は一切換価価値はないから相続財産を構成しない。