個人の決算(10)

 

 第2審は次のように判示しました。

 

 

 

 控訴人の弁護士会等の役員等としての活動が

 

 控訴人の「事業所得を生ずべき業務」に該当しないからといって,

 

 その活動に要した費用が控訴人の弁護士としての事業所得の必要経費に算入することができないというものではない。

 

 なぜなら,控訴人が弁護士会等の役員等として行った活動に要した費用であっても,これが,先に判示したように,

 

 控訴人が弁護士として行う事業所得を生ずべき業務の遂行上必要な支出であれば,

 

 その事業所得の一般対応の必要経費に該当するということができるからである。

 

 

 そこで検討するに,先に判示したとおり,弁護士会及び日弁連は,弁護士等及び弁護士会の指導,連絡及び監督に関する事務を行うことを目的とするものであり,東北弁連は,仙台高等裁判所の管轄区域内の弁護士会の連絡及びこれらの弁護士会所属会員相互間の協調,共済並びに懇親に関する事項等を行うことを目的とするものである。

 

 そして,弁護士会等は,弁護士法に定められている弁護士の資格審査又は懲戒についての事務を行うほか,本件訴訟に提出された証拠から認められるだけでも,平成16年度から平成17年度にかけて,国選弁護報酬や民事法律扶助制度への補助金の増額に関する国会議員等への働きかけ,弁護士倫理の遵守を目的とした弁護士職務基本規程の制定、弁護士新人研修制度の充実のための資料作成,弁護士補助職認定制度の創設に向けた準備等の活動を行っており,

 

 これらが弁護士の使命の実現並びに我が国の社会秩序の維持及び法律制度の改善(弁護士法1条参照)のためであることはいうまでもない。

 

 

 

 仙台弁護士会,東北弁連及び日弁連の役員並びに仙台弁護士会常議員会の常議員は,会則等において,その会員である弁護士の中から選任することとされている。要するに,上記のような弁護士会等の活動は,すべてその役員等に選任された弁護士が現実に活動することによって成り立っているものである(弁護士法24条,弁護士職務基本規程79条参照)。 

 

 そして,弁護士会等は,独自に資産を有し,会員や所属の弁護士会から会費を徴収すること等により,その活動に要する費用を支出しているものの,

 

 そのすべてを弁護士会等が支出するものではなく,弁護士会等が支出しない分は,弁護士会等の役員等に選任された個々の弁護士が自ら支出しているのが実情である。

 

 以上によれば,弁護士会等の活動は,弁護士に対する社会的信頼を維持して弁護士業務の改善に資するものであり,

 

 弁護士として行う事業所得を生ずべき業務に密接に関係するとともに,

 

 会員である弁護士がいわば義務的に多くの経済的負担を負うことにより成り立っているものであるということができるから,

 

 弁護士が人格の異なる弁護士会等の役員等としての活動に要した費用であっても,

 

 弁護士会等の役員等の業務の遂行上必要な支出であったということができるのであれば,

 

 その弁護士としての事業所得の一般対応の必要経費に該当すると解するのが相当である。