個人の決算(8)

 

 弁護士会会長及び日弁連副会長等としての会務に係る支出については、以下の通り判示しました。

 

 

 弁護士が弁護士の地位に基づいて行う活動のうち、所得税法上の「事業」に該当する活動とは、事業主である弁護士がその計算と危険において報酬を得ることを目的として継続的に法律事務を行う経済活動をいうことになる。

 

 そして、ある活動が当該弁護士の所得税法上の「事業」に該当するか否かは、当該弁護士の主観によって判断されるのではなく、当該活動の営利性や有償性の有無、継続性や反復性の有無、当該活動から生じる成果の帰属先、当該活動に必要な資金や人的物的資源の調達方法、当該活動の目的等の客観的諸要素を総合考慮し、社会通念に照らして客観的に判断されるべきものであるというのが相当である。

 

 

 とし、

 

 

 弁護士会及び日弁連の目的は、弁護士等の指導、連絡及び監督に関する事務を行うことにあるのであり、これらの目的の下に行われる事務や活動には、弁護士等に対する直接の指導、連絡及び監督のほか、弁護士等の使命や努力目標(同法1条参照)の達成に資するための事務や活動であって、直接的又は間接的に弁護士等の指導、連絡及び監督にとって有益なものも含まれると解する余地はあるとしても、そのような活動等は、弁護士等全体の能力向上や社会的使命の達成等を目的としたものであるというべきであるし、これらの活動等から生じる成果は、当該活動を行った弁護士個人に帰属するものではなく、弁護士会や日弁連ひいては弁護士等全体に帰属するものと解される。

 

 

 また、東北弁連も所属弁護士会やその会員相互の協調等や業務改善に関する事項を行うこと等を目的とするのであって、東北弁連の活動等も、弁護士会や日弁連の活動等と同様に、弁護士等全体の能力向上や社会的使命の達成等を目的としており、それから生じる成果も東北弁連や弁護士全体に帰属するものと解される。

 

 

 とし、

 

 

 原告が弁護士会等の役員として行う活動を社会通念に照らして客観的にみれば、その活動は、原告が弁護士として対価である報酬を得て法律事務を行う経済活動に該当するものではなく、社会通念上、弁護士の所得税法上の「事業」に該当するものではないというべきである。 

 

 そうすると、前記の各支出については、これらが弁護士会等の役員としての活動との関連で支出されたものであるからといって、原告の事業所得を生ずべき業務に直接関係して支出された必要経費であるということはできない。

 

 

 

 本件各支出は、原告の事業所得を生ずべき業務と直接関係し、かつ当該業務の遂行上必要な支出ということはできないから、これらは、いずれも原告の事業所得の金額の計算上必要経費として控除することができるものには該当しないというのが相当である。

 

 

 

 としたのです。