馬券裁判(14)

裁判所は、

 

 確かに,個々のレースについては競走結果が偶然に左右され,したがって,購入した当該馬券に対する払戻金の有無及び金額も偶然に左右されることは検察官主張のとおりである、

 

とするが、

 

 

 FX取引等の投機的取引の所得分類にも照らし,収入の有無及び金額が偶然に左右されることの一事をもって所得源泉性を否定することはできない。

 

 

 そして,前記で述べたとおり,一回的な行為として見たときには偶発的所得として一時所得の性質を有するものであっても,これが連続して継続的行為となることで所得の性質が変化し,雑所得等他の所得になる可能性があるものというべきである。

 

 本件馬券購入行為については,既に述べたように,源泉性を認めるに足りる継続性,恒常性が認められ,これによる所得の性質が変化するに至ったと見られるのであるから,幾ら大量かつ多額の馬券を反復,継続して購入しても馬券購入行為の性質ないし本質は変わらないとして,本件馬券購入行為についてまでも継続性,恒常性を認めず,その払戻金に係る所得は「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」に当たらないとする検察官の主張は採り得ない。

 

 としました。

 

 

 

 競馬と先物取引及びFX取引とは射倖性がある点において共通するのであるから,そもそも射幸性があるからといって「営利を目的とする継続的行為」への該当性を否定することはできない、

 

とも判示しています。

 

そして、

 

 先物取引及びFX取引の本質はあくまで商品等の売買であり,その商品等の購入行為は全体としては商品取引相場又は外国為替相場に影響を及ぼすものと認められるのに対して,競馬はレースに出走した馬の着順を予想しこれに金銭を賭けるギャンブルであるから,馬券の購入数は全体としてオッズに影響を及ぼすとはいい得るものの,その本質に相違があることは否定できない。

 

 しかし,既に述べたとおり,一時所得か雑所得かを判断する上で重要となるのは所得源泉性を有するか否かであって,所得の基礎となる行為の本質については,所得源泉性を有するか否かを判断する上で,一つの考慮要素となることはあっても,決定的な判断基準となるものではない。

 

 

 また,先物取引やFX取引においては,取引をする者の判断で取引の方法,時期及び量を管理調節することにより,投資等の結果に対して影響を及ぼすことができることは検察官指摘のとおりであるが,他方で,取引をする者が実際に利益を得られるか否かについては,前記のとおり,競馬と同様偶然が作用しており,いずれも投機性の高い行為である。

 

 一方,馬券購入行為は,競走結果(着順)に影響を及ぼすことはないものの,前記のとおり,払戻金の有無及び金額との間に一定の因果関係を有している。

 

 そして,これにとどまらず,取り分け本件において被告人の行った馬券購入方法は,恒常的に所得を生じさせ得るように,本件ソフトを用いて最新の競馬データに基づき算出された条件に適合する馬券を,算出された価格分購入するというものであるから,市場の動向等に応じて取引方法,時期及び取引量を管理調節することと類似しているということができる。

 

 以上の点からすれば,先物取引及びFX取引と本件馬券購入行為にはむしろ所得源泉性という観点からすると類似性が認められるというべきである、

 

と判示しました。