新興国における課税問題(15)

 

 新興国における、税務当局に対する異議申し立て等権利救済はどのようになっているのでしょうか?

 

 

【中国】

 

・ 企業が、税務当局の課税措置に不服がある場合には、異議申立を行うことができる。しかし、異議申立を行うとそれ以降の税務当局の監視がより厳しくなること、他の案件で課税措置を受けてしまう恐れがあること等を危惧して、異議申立を行いづらいとの声がある。

 

・ また、行政訴訟に申立てしたとしても、裁判官は税務の専門家ではないため、妥当な判決が下される可能性が低いと指摘される。

 

 

【インド】

 

・ 異議申立の申立先は税務当局内の組織であることから、税務当局側に有利な判決が下されることが多いが、裁判では上級審に上がるほど、公平な判決が下されると言われている。ただし、最高裁まで争うと訴訟期間が結審までに10年以上と長期にわたり、裁判費用や人件費等が企業体力を圧迫しかねない。

 

・ また、ITAT(Income Tax Appellate Tribunal)に提訴する際には、追徴税額の一部を預託金として納付する必要がある。預託する金額については、具体的な規定が無く、税務当局との交渉によって決まることとなっている。(納税者が勝訴した場合は、預託金は利息付きで返還される。)

 

※異議申立の結果に不服がある場合、納税者はITATへ提訴することができ、その判決に不服がある場合は、高等裁判所、さらには最高裁判所へ上訴が可能。

 

・ なお、訴訟中であっても同様の課税措置が引き続き行われるため、企業にとっては、毎年訴訟案件が増加する一方となり、その都度、預託金を負担しなければならない。

 

・ 追徴課税が確定した場合に、当該追徴の対象となる本税及び延滞税の他に、ペナルティがかかり、負担が重い。

 

 

【インドネシア】

 

・ 異議申立を行う場合、独立した第三者機関ではなく、更正通知を行った税務当局への申立となるため、ほとんどの場合却下されると言われる。

 

・ 異議申立に当たっては、税務当局との間で合意した額を預託金として納付することが義務づけられている。なお、異議申立が却下された場合には、未払い金額の50%が罰金として課されることとなる。

 

・ 2007年国税総則法では、異議申立却下による罰金は、提訴時点では課されないとされているが、税務裁判所に提訴を行う場合、税務裁判所法では、裁判を提訴する前に追徴課税決定通知書の額の50%を支払う必要があると定められており、矛盾が生じている。

 

・ 税務裁判所で判決が下されるまでに長期間かかる。

 

 

【ブラジル】

 

・ 裁判は適正に処理されると言われるが、訴訟を起こしてから10年以上と長期にわたり、裁判費用や人件費等が企業体力を圧迫しかねない。

 

・ 税制の裁判の場合、仮に税務知識に乏しい裁判官が担当すると、納税者たる企業の主張が理解されず、企業にとって不利な判決が出る場合が多いと言われる。

 

・ 一方、行政手続(不服申立)の場合、行政庁の税制に対する知見が豊富で審議のレベルも高く、かつ、短期での解決が見込まれるとされる。また、納税者審議会があり、政府関係者以外にも民間関係者も関与する仕組みとなっているため、審理が公正に行われると言われている。

 

【ベトナム】

 

・ 税務裁判制度が有効に機能しておらず、税務裁判を利用したとしても裁判を取り仕切る適切な税務裁判官がおらず、適切な判断が下されない可能性がある。また、裁判に非常に時間がかかる。

 

・ 一方で、税務当局に対して事前に質問書を提出し、公式レターによる文書回答を得ることで、不明確性をクリアする手段が一般的に取られている。公式レターは都度確認を行う必要があるため手間ではあるが、概ね期限である2カ月以内に発行される。

 

 

【フィリピン】

 

・ 還付請求に係る訴訟に対する租税裁判所の判決が下されるまでに、一般的に6年以上、最高裁判所においては10年以上かかることもあるとされている。

 

・ また、還付金訴訟の場合は、還付申請金額の1%を手数料として租税裁判所へ支払う必要があり、手間及び費用の点からも納税者を本質的に救済する制度にはなりえていない。