平成24年10月19日付け財務大臣宛て、会計検査院法第36条、意見表示

 相続財産に係る譲渡所得の課税の特例

 

 

 

 税の負担を軽減する特別措置として、措置法第39条による相続財産に係る譲渡所得の課税の特例がある。

 

 資産の譲渡による所得金額は、資産の譲渡による収入金額から当該資産の取得費や譲渡に要した費用の額等を控除した金額とされている。

 

 特例は、相続税の課税対象となった相続財産の譲渡が相続の直後に行われる場合、特に相続税納付のために相続財産の譲渡が行われる場合には、当該相続財産に対して課される相続税のほか、値上がり益である譲渡所得金額に対して所得税が相次いで課されることとなるため、この相続税と所得税の負担の調整を図るという趣旨で昭和45年に創設された。

 

 そして、特例創設当時の相続税と所得税の負担の調整は、相続開始の日の翌日から一定期間内に相続財産の譲渡がなされた場合に、相続財産の譲渡所得金額の計算上、譲渡した相続財産に対応する相続税相当額を取得費に加算して譲渡収入金額から控除することによって所得税を軽減させる方法により行われていた。

 

 平成5年度の税制改正において、相続財産である土地等を譲渡した場合における取得費加算額について、「譲渡した相続財産に対応する相続税相当額」から「相続した全ての土地等に対応する相続税相当額」に拡大され、譲渡していない土地等に対応する相続税相当額も譲渡収入金額から控除されることとなった。

 

 

 

会計検査院の検査結果

 

 

(検査の観点及び着眼点)

 

 特例は、昭和45年の制度創設以来、種々の改正を経て現在に至っているが、特に5年改正から20年近くが経過する間に、地価公示価格が大幅に下落し、近年は高騰前の水準でほぼ安定的に推移していたり、譲渡所得税率が平成16年以降は15%に半減されていたり、さらに、物納申請者数が大幅に減少していたりするなど、特例を取り巻く状況は大きく変化している。

 

 そこで、会計検査院は、有効性等の観点から、特例の適用状況はどのようになっているか、特例による相続税と所得税の負担の調整の状況はどのようになっているか、特例を取り巻く状況の変化は特例の効果にどのような影響を与えているか、特例についてどのような検証がなされているかなどに着眼して検査した。

 

 現行制度においては、相続した土地等を譲渡した場合における譲渡所得金額の計算上、相続した全ての土地等に対応する相続税相当額を控除できることから、5年改正前と比べ、土地等を多く相続してその一部を譲渡した者は取得費加算額が著しく増加している状況が見受けられた。

 

 土地等の相続税評価額についてみても、地価の下落とその後の相続税の課税最低限の見直しなどにより、相続税の申告のあった相続全体で、5年には13兆円を超えていたものが、年々減少し、17年以降は5兆5000億円程度で推移している。また、相続財産全体に占める土地等の評価額の割合も、5年には72.8%であったが、17年以降は50%程度で推移しておりは、5年改正時点から大きく状況が変化している。

 

 前記のように特例を取り巻く状況が大きく変化した結果、5年改正による相続税と所得税の更なる負担の調整は、その必要性が著しく低下しているのに、特例に対する検証が行われないまま、現行制度の下で土地等を多く相続した者の中に所得税額が著しく軽減されている者が見受けられるなどの事態は、特例が本来の趣旨に沿って有効に機能しているとは認められず、改善の要があると認められる。

 

 として 会計検査院は財務省に対し、特例が有効かつ公平に機能しているかの検証を行った上で、特例について、相続財産の処分が相続の直後に行われる場合、特に相続税納付のために相続財産の処分が行われる場合における相続税と所得税の負担の調整という本来の趣旨に沿ったより適切なものとするための検討を行うなどの措置を講ずるよう意見を表示しました。