税務調査手続(5)

 翌月10月の状況として裁判所が認定した事実は以下の通りです。

 

 

10月1日

 

 ア 原告は、吐き気、胃痛がひどくなり、9月20日ころには食事もできない状態になったことから、同

  月24日、Gで診察を受けたところ、G医師がC病院に電話して内視鏡検査の予約を取ってくれたの

  で、10月1日午前中、C病院を受診し、同病院において、内視鏡検査を受けた。

 

   同検査の後、甲医師は、原告に対し、検査結果を待たないとはっきりとは言えないものの、食道にび

  らんがあり、胃にもポリープがあり、がんの疑いがあること、胃の血管がむき出しになっており、あと

  1週間遅かったら吐血していた可能性があることを告げた。

 

 イ 原告は、店を休んでは生計を維持できないため、男性を一人雇い、仕事を覚えてもらってから入院し

  ようと考え、10月1日午後零時20分ころ、本件店舗に戻り、腹痛のため、座敷の畳の上で横になっ

  ていた。

  

 ウ 丙及び乙は、午後1時30分ころ、本件店舗に臨場し、原告に対し、かねてより求めていた帳簿書類

  の提示を求めた。

  

   これに対し、原告は、「今日、病院で内視鏡検査を受けてきた。その結果が出ないとはっきりとは言

  えないが、食道がん、胃がんの疑いがあると言われた。腹部の差し込みが激しいので、今日は帰って欲

  しい。」旨を述べた。

  

   しかし、丙は、これに応じないで、原告に対し、簡易帳簿に記録された売上金額と所得税青色申告決

  算書に記載された売上金額との差額がなぜ生じるかを再度尋ねた。

 

   原告は、女性従業員がレジに売上げを入力する練習をしたとき、レジの売上金額を練習前の売上金額

  に訂正しなかったから、レジの売上金額が過大になり、それにもかかわらず、簡易帳簿にはレジから出

  力したジャーナルテープの売上金額をそのまま記録したため、平成5年7月から平成7年7月までの簡

  易帳簿に記録された売上金額と所得税青色申告決算書に記載された売上金額との差額が生じた旨申し立

  てた。

 

   これに対し、丙は、さらに具体的に根拠を示して説明するように求めたが、原告は、それ以上具体的

  な説明をしなかった。

 

   丙は、原告に対し、帳簿書類の保存が確認できなければ所得税の青色申告の承認の取消事由に該当す

  るとともに、消費税の仕入税額控除が認められない旨説明したが、乙は、原告が腹痛を訴えているのを

  見て、丙を制止した。

 

   そこで、丙は、それ以上の税務調査を止め、午後1時45分ころ、本件店舗を辞去した。(上記の点

  につき、丙は、「原告から、体調が悪いので今日は帰って欲しいなどと言われたことはない。帰り際

  に、原告から胃の調子が悪いので入院するかもしれないと聞いたにとどまる。」旨の証言をしている。

 

   しかし、原告は、10月1日に上記税務調査に先立ち内視鏡検査を受け、医師から、胃がん、食道が

  んの可能性があると告げられたのであり、原告本人の供述はこのような客観的な事実と符合するもので

  あること、上記のような健康状態であれば、原告が、丙らに対し、自己の健康状態を話して調査の延期

  を求め、これに応じて丙らは早々に本件店舗を辞去したと考えるのが自然であること等の点を考慮する

  と、証人丙の上記証言中上記認定に反する部分はたやすく信用できない。)

  

 

 10月8日

 

 

 原告は、Gの紹介を受け、9月30日にGで撮ったレントゲン写真と10月1日にC病院で受けた内視鏡検査の写真を持って、D病院で診察を受けた。そして、D病院の医師から、食道がんと胃がんであること、初期段階は過ぎており進行がんであること、手術が必要であることを告げられた。

  

 

 10月9日

 

 

 丙及び丁は、午後3時20分ころ、本件店舗に臨場した。

 

 原告は、本件店舗内で、丙及び丁を席に座らせ、同人らに対し、「前日にD病院で診察を受け、胃がん、食道がんの告知を受けた。初期を過ぎた進行がんであり、手術が必要で入院するよう言われたが取りあえず断って帰ってきた。」旨を伝え、

 

「税務調査のストレスから病気になった。丙らが税務調査に関し原告の説明を信用しないことがストレスの原因だ。」などと言って丙らを非難し、税務調査を止めるよう求めた。

 

 これに対し、丙は、原告が帳簿書類を提示して申告が適正に行われていることを証明してくれれば調査が終わる旨、調査が終わらない原因は、原告が平成8年分以降の帳簿を作成していない上、平成14年分以前の書類を保存していないことにある旨を述べ、これを何度か繰り返し説明して帳簿書類の提示を求めた。

 

 原告は、丙のこのような態度に腹を立て、これを証拠に残そうと考え、インスタントカメラを取り出して丙や丁の顔を撮ろうとシャッターを切ったが、1回目は丙が手で顔を隠したため撮ることができず、2回目も腕でレンズを隠されたため、撮ることができなかった。

 

 丙及び丁は、原告に対し、撮影を止めるよう再三要求し、また、丙は、原告に対し、本件店舗の鍵を開けるように要求したが、原告がこれに応じないので、自ら鍵を開けて本件店舗を退出しようとした。

 

 その際、原告は、鍵を開けようとする丙の手を足で払った。

 

 丙が、原告に対し、「調査妨害です。公務執行妨害です。警察を呼びますよ。カメラから手を離してください。」と述べると、原告は「撮らないから聞きなさい。」と述べ、丙及び丁に対し、自己の主張等を縷々述べた。

 

 原告の話が途切れた時、丙が「甲さんの話は聞きましたので、これで出してください。」と求めると、原告がこれに応じたので、丙及び丁は、鍵を開け、午後4時ころ、本件店舗から退出したものの、原告が後を追ってきたので、自動車を本件店舗の駐車場に置いたまま離れ、他の職員に自動車を取りに行かせた。

 

 しかし、自動車が出せない状態にされていたため、取りあえずそのままとした。

 

(上記認定について、丙は、原告が調査を延期して欲しいなどと言った事実はない旨の証言をしている。しかし、原告は前日にD病院で診察を受け、胃がん、食道がんの告知を受けたのであり、原告本人の供述はこのような客観的事実と符合しており、この点に加えて、原告が立腹して丙らの写真を撮ろうとしたとの事実を併せ考慮すると、原告が、丙らに対し、健康状態を理由に税務調査を止めるよう求め、これに応じなかった丙らの態度に腹を立てカメラで撮影するという嫌がらせ行為に及んだとみるのが自然である。

 

 したがって、丙の上記供述中上記認定に反する部分はたやすく信用できない。)

 

 

 10月15日

 

 

 丙及び乙は、午後1時20分ころ、本件店舗に臨場した。

 

 丙は、原告に対し、先日の件にかかわらず調査を継続する旨告げ、午後1時30分ころ、乙とともに本件店舗を辞去した。

 

 

 10月20日

 

 

 丙、乙及び戊は、午後1時ころ、本件店舗に赴いた。

 

 丙は、原告に帳簿書類を返却した後、原告に対し、調査した結果、平成12年分以降の所得税の青色申告の承認を取り消すことを伝え、また、本件各年分の所得税及び本件各課税期間の消費税等のそれぞれについて新たに納付すべきこととなる税額を伝えた。

 

 さらに、丙は、原告に対し、修正申告するのであれば平成15年10月22日までに丙に連絡するように述べ、連絡がない場合は更正処分を行う旨告げた。

 

 原告は、このような金額の税金は払えない旨繰り返し述べたが、丙は、調査した結果であると説明し、本件店舗を辞去した。