税務調査手続(2)

平成19年07月03日 ,広島地方裁判所,平成17年(ワ)第1658号事件について検討します。

 

 原告の主張等を検討します。

 

 

 1 争いのない事実

  

  (1) 原告は、広島市A1階において「B」の屋号で焼肉店(以下「本件店舗」という。)を営む者

     である。

 

  (2) 広島西税務署個人課税第二部門統括国税調査官乙(以下「乙」という。)、同部門上席国税調

     査官丙(以下「丙」という。)ら調査担当者は、

 

     平成15年9月8日午後1時ころ、税務調査のため原告の店舗に臨場し、

     その後も、同月9日午後1時ころ、

     同月10日、

     同月18日、

     同年10月1日午後1時30分ころ、

     同月9日午後3時20分ころ、

     同月15日、

     同月20日午後と、

     8回にわたり本件店舗等に臨場し、税務調査を行った

 

    (上記の調査のうち平成15年10月1日及び同月9日実施の調査を、以下「本件調査」とい

     う。)。

 

  (3) 広島西税務署長は、原告に対し、

  

     平成15年10月23日、

     平成12年から平成14年分の所得税の青色申告承認取消処分、

     平成12年から平成14年分の所得税の各更正処分、

     平成12年分及び平成13年分の所得税の過少申告加算税の賦課決定処分、

     平成14年分の所得税の無申告加算税の賦課決定処分、

     平成12年から平成14年までの課税期間の消費税等の各更正処分及び過少申告加算税の賦課決

     定処分を行った。

  

      原告は、広島西税務署長に対し上記各処分の異議申立てを行ったが棄却され、さらに、国税不

     服審判所長に対し、同異議申立棄却決定の審査請求を行ったが、一部取消しの決定を受けたにと

     どまった。

 

 

 

原告の主張

  

ア 原告は、平成15年10月1日、税務調査のため本件店舗に訪れた統括官乙及び調査官丙に対し、

 

「同日C病院において内視鏡検査を受け、その後の診察で、事実上がんの告知を受けた。」

 

 旨を告げ、健康状態が悪いことを理由として税務調査の中止を求めた。ところが、乙及び丙は、これを拒

 否して税務調査を続行した。

 

イ 原告は、平成15年10月9日、税務調査のため本件店舗を訪れた調査官丙及び広島西税務署審理専門

 官(個人課税)付上席国税調査官丁(以下「丁」という。)に対し、

 

 「同月8日にD病院を受診し、同病院の医師から『がんだから手術が必要である。13日には入院しなさ

  い。』と指示された。しかし仕事の引継ぎが完了していなかったために入院を延期して本件店舗で働い

  ている。」

 

  旨を告げ、このように健康状態が悪いことを理由に税務調査の中止を求めた。ところが、丙及び丁は、

 これを拒否して税務調査を続行した。

  

 

ウ 税務職員による質問検査権の行使は、

 

  国税犯則取締法の規定に基づき裁判所が行う臨検、

 

  捜索又は差押え、

 

  あるいは裁判所の許可を得て収税官吏が行う臨検、

 

  捜索又は差押え等の強制捜査

 

  とは異なり、相手方において敢えて質問検査を受忍しない場合にはそれ以上直接的物理的に強制し得な

 い任意調査の一種であり、その行使に際しては相手方の承諾を要するものである。

 

  ところが、本件においては、上記ア、イのとおり、広島西税務署職員らは、原告から健康状態が悪いの

 で調査の延期をして欲しい旨の申入れを受けたにもかかわらず、これを無視し、原告の明示的承諾はもち

 ろん、黙示の承諾をも得ないまま、本件調査を続行したのである。

  

 

  したがって、上記ア及びイの広島西税務署職員らが行った質問検査権の行使は、所得税法234条に定

 める質問検査権の行使として許される範囲を超えており、社会通念上の相当性の範囲を逸脱した違法な行

 為であるから、被告は、国家賠償法1条1項に基づき、これによって被った原告の精神的苦痛について損

 害賠償責任を負う。

 

と主張しました。