自筆証書遺言について遺言能力が否定された事例(7)

 先日の義理の妹Yの弁護士X3に対する主張に対し、弁護士X3は以下のように主張しました。

 

 

(1) 本件自筆証書遺言の無効

 

 本件自筆証書遺言は無効であるから(本件自筆証書遺言の無効については、X1及びX2の主張を援用する。)、Yは、亡花子の包括受遺者としての地位を欠くことになる。よって、Yの請求は棄却されるべきである。

 

(2) 不法行為が成立しないことについて

 

 X3は、亡花子から、本件公正証書遺言により遺言執行者となること、亡花子の全財産の管理行為、成年後見人選任申立手続を乙山弁護士に依頼すること、X3が亡花子の成年後見人となることなどの事務処理の依頼を受けていたが、平成12年7月28日、亡花子との間で、上記事務処理の弁護士費用(着手金・実費・報酬など)として本件定額貯金証書を受領することを合意したものである。

 

 定額貯金は、解約手続をしないと正確な金額が判明しないため、X3は、X3において同貯金の解約手続をして金額を確定させた後、同年8月5日、亡花子に対し、本件定額貯金証書を受領したことについて領収書を発行した。このように、X3の行為は、亡花子の意思に沿ったものであるから、不法行為が成立することはない。

 

 Yは、弁護士費用としては高額であると主張するが、当時、亡花子の遺産は2億5000万円から3億円程度と予想されていたこと、委任事務が終了した場合には、その過不足は精算されることからすれば、遺産の1割以下である2209万1963円が弁護士費用として高額すぎるということはない。

 

 

(3) 遺留分減殺による損害賠償請求の減額

 

 亡花子の相続人は、X1及びX2のみであるから、両名はそれぞれ2分の1の法定相続分を有し、X1及びX2は、本件自筆証書遺言の無効を主張すると同時に、Yに対し、遺留分減殺請求権を行使した。

 

 したがって、仮にX3に損害賠償義務があるとしても、YがX3に対し請求できるのは、亡花子の損害賠償請求権(本件定額貯金証書の払戻金額)の2分の1である1104万5968円となる。