自筆証書遺言について遺言能力が否定された事例(6)

 本日は義理の妹Yの弁護士X3に対する主張 を概観します。

 

 このあたりから、泥沼化していることがよくわかります。

 

 

(1) 原告X3の不法行為

 

 原告X3は、平成12年7月28日、乙山弁護士とともに、被告Y宅に同居していた亡花子を訪問し、乙山弁護士の提案により、何らの法的権限もなく、亡花子名義の多数の銀行預金通帳、実印、銀行届出印など4個の印鑑、亡花子名義の本件定額貯金証書(10通)を持ち去った。

 

 さらに、原告X3は、平成12年7月31日、本件定額貯金証書と実印を郵政省庁内郵便局(以下「本件郵便局」という。)に持参し、応対した郵便局員に対し、自分は亡花子の娘であると虚偽の事実を申し向けて、同貯金を払い戻し、振出人を同郵便局とする額面合計2209万1963円の小切手10通の交付を受けた。

 

 亡花子及び被告Yは、原告X3に対し、何度も本件定額貯金証書等の返還を求め、あるいはそれらを用いて払い戻しを受けた小切手の引渡しを要求してきたが、原告X3は、亡花子らの要求に応じず、持ち去った本件定額貯金証書等について何らの説明をしようともしなかった。

 

 原告X3が、亡花子の了解を得ることなく本件定額貯金証書等を持ち去り、さらにその払い戻しを受けて金銭等を領得した行為は、亡花子に対する不法行為に該当する。

 

 なお、原告X3は、本件定額貯金証書は弁護士費用として受領したと主張するが、亡花子が、原告X3に対し、2200万円余を弁護士費用として支払う約束をした事実はない。遺言執行者としての報酬は、弁護士報酬基準によっても200万円程度が相当であり、成年後見人選任申立事件の報酬を含めたとしても、2200万円余という報酬は高額にすぎ、公序良俗に反する。

 

 (2) 損害額

 

 原告X3は、亡花子の了解を得ることなく、本件定額貯金証書を持ち去り、その払い戻しにより2209万1963円を領得したのであるから、同額が亡花子の損害であり、被告Yは、本件自筆証書遺言に基づいて、亡花子の原告X3に対する損害賠償請求権を承継した。

 

 また、被告Yは、本件訴訟の追行を弁護士に委任したが、その報酬は220万円が相当である。

 

 よって、亡花子の包括受遺者である被告Yは、原告X3に対し、不法行為に基づき、損害賠償金2429万1963円及びこれに対する不法行為(原告X3が本件定額貯金証書を持ち去った行為)の日である平成12年7月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。