自筆証書遺言について遺言能力が否定された事例(5)

本日はかつて亡花子が信頼していた弁護士であるX3の主張を概観します。

 

 

(1) 本件自筆証書遺言が無効であること

 

 本件自筆証書遺言は、以下の理由により無効である。

 

 ア 本件自筆証書遺言は、亡花子が作成したものではない。

 

 イ 亡花子は、本件自筆証書遺言当時、遺言能力を欠いていた。

 

   亡花子は、平成12年8月5日ころまでは、原告X3との間で、遺言や財産管理に関する話をしていた

   が、会話の内容・様子とも正常であり、特に意思能力に欠けるところはなかった。しかし、その後

   徐々に痴呆が進行して判断能力が減退し、本件自筆証書遺言が作成された同月22日には、遺言能力は

   失われていた。

 

   被告Yは、本件自筆証書遺言は、丙田弁護士が紙に書いたものを亡花子が書き写すという方法で作成

   したと主張するが、このような方法では、本人の意思を確認することは極めて困難である。

 

 

 ウ 亡花子は、本件自筆証書遺言当時、被告Yに全財産を遺贈する意思がなかった。

 

   原告X3は、平成12年7月8日ころ、被告Yから、亡花子の遺産を全部欲しいといわれたため、その後

   同年8月5日までの間に、数回、亡花子に対し、遺産を被告Yに与える意思があるかを尋ねたとこ

   ろ、亡花子は、その意思がないことを明確に表明し、本件公正証書遺言のとおり執行してもらいたい

   との回答をした。亡花子には、その後1か月足らずの間に、全財産を被告Yに与えるように遺言書を

   変更する理由はなく、亡花子は、被告Yに全財産を遺贈する意思はなかった。

 

 

(2) 受遺者の欠格事由に該当すること

 

 上記(1)ウのとおり、亡花子には、全財産を被告Yに遺贈する意思はなく、被告Yもそのことを知っていた。しかし、被告Yは、亡花子の遺産全部を欲しいと思い付き、亡花子の痴呆が次第に進み、判断能力が失われるのを見計らって、亡花子に本件自筆証書遺言をさせた。

 そして、遺言書の「偽造」(民法965条、891条5号)には、被相続人が意思表示できないような状態にあることを利用して、相続人等が発議して遺言をさせる場合も含まれると解され、上記の被告Yの行為は、遺言書の偽造にあたるから、受遺者の欠格事由に該当する。

 

 

(3) 被告Yの本案前の答弁に対し

 

 本件自筆証書遺言が無効となれば、本件公正証書遺言が最後の遺言となり、原告X3には、遺言執行者として権利義務が生じることになる。よって、原告X3は、遺言執行者として、本件自筆証書遺言の無効確認を求める原告適格及び利益がある。