自筆証書遺言について遺言能力が否定された事例(4)

 本日は亡花子の腹違いの妹Yの主張を概観します。

 

 

 亡花子は、平成12年8月22日当時、十分な遺言能力を有していたし、本件自筆証書遺言は亡花子の意思に基づいて作成されたものである。

  

(1) 亡花子は、河北総合病院に入院中、医師や看護婦と通常の会話をしていた。また、亡花子は、退院

   後は被告Yと同居していたが、被告Yや、ホームヘルパーのP、助産婦のN、助産婦会の事務局長で

   あったO、義理の娘であるKとも通常の会話をしており、意思能力に欠けるところはなく、自らの意

   思に基づいて本件自筆証書遺言を作成した。

 

    仮に、亡花子が、本件自筆証書遺言当時、痴呆症状を呈していたとしても、脳血管性痴呆とは、い

   わゆるまだら痴呆の症状を示し、段階的に進行するが、途中でよくなったり悪くなったりし、人格や

   一般的な常識は比較的よく保たれ、亡花子は、自分の行為の意味を判断することができるだけの精神

   的能力があったから、遺言能力を有していた。

  

 

(2) 亡花子は、平成10年、被告Yに2000万円を遺贈する旨の本件公正証書遺言を作成した。しかし、

   亡花子は、平成12年7月以後被告Yと同居して介護を受けるようになり、実子である原告X1及び原

   告X2とはほとんど一緒に暮らしたことがなかったため、今後自分が生きている限り被告Yの世話にな

   って生活したいと思い、全財産を被告Yに遺贈することにした。

   

    また、亡花子は、本件公正証書遺言において、原告X3を遺言執行者に指定していたが、平成12年

   7月28日、原告X3が、乙山弁護士とともに被告Yの自宅にやってきて、亡花子に無断で、亡花子名

   義の本件定額貯金証書10通などを持ち去ったため、原告X3に対し深い不信の念を抱くようになっ

   た。

 

    そこで、亡花子は、被告Yに全財産を遺贈するとともに、被告Yを遺言執行者に指定する旨の本件

   自筆証書遺言をした。

  

 

(3) 亡花子は、事前に遺言書を書くことを決め、平成12年8月22日午後4時ころ、被告Yとともに、丙

   田弁護士の事務所を訪れた。丙田弁護士は、亡花子を近くの公証人役場に連れて行き遺言公正証書を

   作成しようとしたが、亡花子が病院の帰りで疲れていると言ったため、同事務所で自筆証書遺言を書

   いてもらうことにした。

 

    亡花子は、財産を全部被告Yにあげたいと述べたため、丙田弁護士は遺言の内容を紙に書いて渡

   し、亡花子がこれを書き写したものであって、このような作成経緯からすれば、本件自筆証書遺言が

   亡花子の意思に基づくことは明らかである。