自筆証書遺言について遺言能力が否定された事例(3)

 本日から、各登場人物の主張を概観していきます。

 

 

 

 亡花子の子である原告X1及び原告X2の主張

 

 

 本件自筆証書遺言当時の亡花子の遺言能力及び遺言意思の有無について。

 

 本件自筆証書遺言が作成された平成12年8月22日当時、亡花子には遺言能力及び遺言意思がなかった。

 

 

(1) 亡花子は、河北総合病院に入院していた平成12年6月ころから脳血管性痴呆に罹患しており、その

   程度は中等度まで進行していた。亡花子は、本件自筆証書遺言を作成した日の3日後である同年8月

   25日に吐血して倒れ、小山病院に2回目の入院をしている。亡花子の精神機能は、河北総合病院の診

   療録などの医療記録や、被告Yの日記に記載された亡花子の言動から明らかなとおり、平成12年6月

   ころから、脳血管性痴呆の状態が改善することなく次第に悪化していったものであって、本件自筆証

   書遺言作成当時、遺産となる財産、その総額、相続人の数や名前、死後、遺言がいかなる効果を持つ

   かといったことを理解する能力を欠いていた。

 

    被告Yは、Oら亡花子の友人が、亡花子は普通の会話をしていたと述べていることをとらえて亡花

   子には遺言能力があったと主張するが、痴呆症の患者は、現実の状況を把握することができなくと

   も、一般的な世間話に調子を合わせたり、周囲に合わせてもっともらしくふるまうことはできるので

   あって、いわば見せかけの理解力を有するにすぎないから、亡花子に遺言能力があったということは

   できない。

 

 

(2) 本件自筆証書遺言は、亡花子が、被告Yに付き添われて朝から病院に行き、その後昼食もとらずに

   丙田弁護士の事務所を訪ね、極めて疲労困憊した状態で、丙田弁護士が書いた遺言状の見本を書き写

   すという方法で作成されたものである。亡花子は、痴呆により遺言能力がなかったものであるが、さ

   らに糖尿病を患っており、空腹状態による低血糖症状に陥っており、低血糖による苦しみから逃れた

   い一心で、遺言書作成の意味を理解しないまま丙田弁護士の見本を書き写しただけであるから、本件

   自筆証書遺言は、亡花子の意思に基づいて作成されたということはできない。

 

 

(3) 亡花子は、生前、被告Yに対し、2000万円を遺贈することを決め、平成10年、本件公正証書遺言

   をした。原告X3は、平成12年7月から8月上旬にかけて、亡花子に対し、被告Yが遺産を全部欲しが

   っている旨何度か伝えたが、亡花子は被告Yに全財産をあげるとは絶対に言わなかった。

 

    それからわずか20日足らずの間に、亡花子がその意思を翻し、遺言書を書き直す合理的な動機、理

   由は全く存在しない。

 

    本件自筆証書遺言の内容は、亡花子の生前の意思に反したものであり、本件自筆証書遺言は亡花子

   の意思に基づかない無効のものである。