自筆証書遺言について遺言能力が否定された事例(2)

本日は亡花子の2通の遺言書を概観してみましょう。

 

 

(1) 平成10年8月24日付けの本件公正証書遺言

 

    亡花子は、平成10年8月24日、被告Y、原告X3及び乙山太郎弁護士(本件訴訟における原告X1及

   び原告X2の訴訟代理人弁護士である。以下「乙山弁護士」という。)とともに、都内銀座の東京法務

   局所属公証人平田定男の公証人役場を訪れ、原告X3及び乙山弁護士立ち会いのもと、本件公正証書遺

   言をした。

 

 

   本件公正証書遺言の内容は、概ね以下のとおりである。

 

   <1> 不動産、借地権、株式、有価証券、下記<2>の残金の現金、その他一切の遺産を、原告X1

       及び原告X2に各2分の1の割合で相続させる。

 

   <2> 現金(預金、信託受益権を現金化したものを含む。)のうち、2000万円を被告Yに、1000

       万円をKに、500万円をLにそれぞれ遺贈する。

 

   <3> 遺言執行者に原告X3を指定する。

 

 

 なお、原告X3は、亡花子に対し、同年10月、遺言執行を行う弁護士費用について、亡花子の遺産が1億4600万円程度の場合には、200万円ではどうかと提案したことがあった。

  

 

(2) 亡花子の1回目の入院及び退院後の事情

 

  ア 亡花子は、平成12年5月30日午前3時ころ、大量に嘔吐し、その後も吐き気がおさまらなかったた

    め、同月31日から同年7月7日まで、河北総合病院に入院した(以下「1回目の入院」とい

    う。)。

    

    亡花子は、退院後、被告Yの自宅で被告Yから介護を受けながら同居をはじめた。

 

  イ 亡花子は、平成12年7月28日、被告Yの自宅において、原告X3及び乙山弁護士の面前で、自筆証

    書遺言の形式を備えた書面(以下「本件遺言書面」という。)を作成した。その記載内容は、「私

    の遺産は全部妹のYにあげる 平成12年7月7日 甲野花子」というものである。

 

    本件遺言書面は、乙山弁護士が遺言内容を紙に書いたものを亡花子に見せ、亡花子がこれを書き写

    すという方法で作成された。

 

  ウ 同月28日、原告X3は、亡花子名義の定額貯金証書10通(以下「本件定額貯金証書」という。同貯

    金解約後、貯金合計額が2209万1963円と判明した。)を、弁護士費用として受領するという理由

    で持ち帰った。

  

 

(3) 本件自筆証書遺言

 

    亡花子は、平成12年8月22日、丙田一弁護士(本件訴訟における被告Yの訴訟代理人弁護士であ

    る。以下「丙田弁護士」という。)の事務所において、丙田弁護士の面前で、本件自筆証書遺言を

    した。その記載内容は、以下のとおりである。

 

 

 遺言書

 

 一 私は、私の全財産を私の妹のYに遺贈します。

 一 私は、右Yを遺言執行者に指定します。

 

 平成12年8月22日 東京都世田谷区梅ヶ丘〈番地略〉

 

 遺言者 甲野花子

 

 

 本件自筆証書遺言は、丙田弁護士が遺言内容を紙に書いたものを亡花子に見せ、亡花子がこれを書き写すという方法で作成された。