パラツィーナ事件(5)

本日はIFDに対する配給権付与に係る契約書を概観します。

 

 エンペリオンのIFDに対する本件映画の配給権付与に係る契約書としては、Distribution Agreementと題する書面(以下「本件配給契約書」という。)がある。本件配給契約書には、概ね次のような規定がある。

 

(イ) 本件配給契約上、「最初の期間」とは本件配給契約開始の日から7年間をいい、「延長期間」とは

   エンペリオンが期間のExtention Option(以下、「延長オプション」という。)を行使した場合のそ

   の後の7年間をいい、両者を併せて「期間」という。

 

(ロ) ライセンサー(エンペリオン)は、配給者(IFD)に対し、次のことを保証する。

 

   〈1〉 適切な品質規格、一定の上映時間及びアメリカ合衆国での上映上の一定のレーティング取得

       の蓋然性等を有すること。

   〈2〉 著作権等上の問題がないこと。

   〈3〉 試写等を除き、上映されたことがないこと。

   〈4〉 本件配給契約によりIFDに与えられた権利等は、本件映画に関するいかなる契約の不履

       行、違反、解除、終了等によっても、解除、変更その他の不利な影響を受けず、また、エン

       ペリオンは、契約期間中いかなる契約の改正、変更、終了又は、契約の条項によるIFDの

       権利に不利益な影響を与えるような変更、終了、解除等を行わないこと。

   〈5〉 エンペリオン又はその組合員は、本件映画に関する権利又は権益を、IFDに与えられた権

       利に悪影響を与えるようには、いかなる者にも、売却、譲渡等を行わないこと。

 

(ハ) エンペリオンの本件配給契約による保証の違反が、Midvale Pictures,Inc.(以下「メディバル」と

   いう。)とジェネシスとの間の売買契約によるメディバルの保証の違反の結果もたらされるものであ

   る場合には、その限度において、本件売買契約の規定にかかわらず、エンペリオンは免責される。

 

(ニ) エンペリオンは、IFDに対し、本件配給契約の期間中、次の権利を単独かつ排他的に与える。

 

   〈1〉 IFDの裁量により、題名の選択、変更をすること及び配給者の付けた題名で前世界で本件

       映画を封切ること。

   〈2〉 IFDの裁量により、本件映画、オリジナル・ネガティブその他の本件映画が化体されてい

       る有体物をカットし、編集し、追加し又は変更すること。また、外国版を作成(字幕を付

       け、吹き替えることと等を含む。)すること。

   〈3〉 IFDの選択するラボラトリー等に本件映画に関するポジティブ・プリント、ビデオ・テー

       プ、ディスクその他を作成させること等。

   〈4〉 IFDの裁量により、本件映画の広告、宣伝・普及等を行うこと。なお、エンペリオンは、

       IFDの事前の同意なしに、本件映画に関する広告等をすることはできない。

   〈5〉 IFDは、本件配給契約の期間を通じ、その供与の時点における慣習に従い、右期間を超え

       る期間にわたる本件映画の公開の権利を第三者に与えることができ、右第三者の権利は、本

       件配給契約の期間終了によって影響されないこと。

 

(ホ) 完成し、すべての点において公開の準備のできた本件映画は、本件配給契約書の作成・交付後

   直ちにIFDに交付されるものとする。本件映画の制作がいまだ進行中の場合は、エンペリオンは、

   本件映画の化体された有体物をすべて現状のまま引き渡すこととし、IFDは、その裁量により、右

   有体物をカットし、編集し、追加し、削除するなどの権限を有することとする。

 

(ヘ) IFDは、エンペリオンに対し、次の金員を支払う。

 

   〈1〉 Advance(以下、「アドバンス額」という。)

       アドバンス額は、本件映画に関し、本件配給契約に規定するNet Payment Amounts(以下

      「ネット支払額」という。)の前払金として、本件配給契約締結の日から各映画の封切りの日

       までの間の各月に対して120万円の金額とする。

   〈2〉 グロス支払額

       グロス支払額は、本件映画のそれぞれに関し、本件配給契約中のAdjusted Gross

       Proceeds(以下「調整総収益」という。)の10パーセントに該当する金額とする。なお、

       調整総収益は、本件配給契約書の添付書類に従って定義・計算・決定・請求及び支払がされ

       る。

   〈3〉 ネット支払額

       ネット支払額は、本件映画のそれぞれに関し、Adjust-ed Net Proceeds(以下「調整純収

       益」という。)のエンペリオンの取り分が、グロス支払額に前払金を加算した金額を超える

       金額とする。右調整純収益のエンペリオンの取り分とは、調整純収益の総額が、損益分岐点

       と同額までは調整純収益の金額、損益分岐点を超える場合は調整純収益の50パーセントと

       する。なお。調整純収益は、本件配給契約書の添付書類に従って定義・計算・決定・請求及

       び支払がされる。

 

 損益分岐点は、本件映画のそれぞれについて、次のとおりとする。

 映画の題名 損益分岐点

 CASUALTIES OF WAR 41億3,353万3,800円

 OLD GRINGO     44億2,805万7,050円

 

   〈4〉 Guarantee Payment(以下「保証支払額」という。)

       保証支払額とは、IFDが、本件配給契約の最初の期間の第7回目の会計期間に調整純収益

       についての計算書の提出を要求される日(以下「決済日」という。)以前における

       Minimum Guarantee Amount(以下「最低保証額」という。)91億7,904万1,5

       63円が、次の合計額を超える金額をいう。

 

       〈イ〉 本件映画のアドバンス額とネット支払額の合計額

       〈ロ〉 右〈イ〉の各金額に対し、右各金額の支払日から決済日までの期間で年6.5パー

           セントの利率で月々複利計算した利息額

 

       エンペリオンに対するIFDの支払債務である保証支払額は、いかなる理由によって本件配

       給契約が終了しても存続するものとする。本件配給契約の他の条項に反対のものがあるか否

       かにかかわらず、保証支払額は、いかなる理由があろうとも、IFDによって、支払停止、

       支払延期、相殺等を行うことなく全額が支払われなければならない。

   〈5〉 これらのFixed Payments(以下「フィックスト支払額」という。)は、本件配給契約書の

       添付資料に記載された金額と日に従って、日本円で支払われる。

   〈6〉 本件配給契約に基づくIFDの支払義務は、エンペリオンとIFDとの間で締結された本件

       オプション契約に基づくClass A Purchase Option(購入選択権。以下「クラスAオプショ

       ン」という。)の行使により、本件オプション契約に規定する範囲でのみ自動的に消滅す

       る。

 

(ト) IFD(又はその譲受人)がクラスAオプションを行使しなかった場合、エンペリオンは、本件映

   画の最初の期間の終了時から、本件配給契約を7年間延長する延長オプションを有する。延長オプシ

   ョンは、本件配給契約締結から6年経過後の日から行使することができ、本件オプション契約に規定

   するセカンド・オプション期間(後期(5)(ロ))の間にIFDがクラスAオプションを行使しないこ

   とを条件として、右セカンド・オプション期間終了によって有効となる。

 

(チ) エンペリオンが延長オプションを行使した場合、延長された本件映画に係る本件配給契約の期間

   は、自動的に延長期間の間、最初の期間に関し本件配給契約に含まれるすべての条項について延長さ

   れる。ただしIFDはエンペリオンに対し、前記(ヘ)に代えて次の金員を支払う。

   〈1〉 Extention Advance(以下「延長アドバンス額」という。)

       延長アドバンス額とは、最初の期間終了後、90日以内に支払われる次の金額をいう。

 

 映画の題名 延長アドバンス額

 CASUALTIES OF WAR 4億1,355万3,380円

 OLD GRINGO     4億4,280万5,705円

 

   〈2〉 グロス支払額

   〈3〉 ネット支払額

       ただし、延長アドバンス額を超える金額の五〇パーセントの金額

 

(リ) IFDがクラスAオプションを行使せず、エンペリオンが延長オプションを行使しなかった場合、

   本件配給契約は、前記セカンド・オプション期間終了の日に終了する。

 

(ヌ) 本件映画は、万国著作権条約及び米著作権法(改訂版)に従った著作権表示が含まれているものと

   する。

    IFDは、自らの名義あるいは著作権所有者の名義で、本件映画の不正な複製、公開もしくは本件

   映画の著作権の侵害を防止し、又は、エンペリオンもしくはIFDの権利の侵害等を防止するため、

   必要又は適当と認める手段を取ることができるものとする。エンペリオンは、IFDに対し、右手段

   を取るために必要な、撤回不能の代理権を与えることとし、そのため、エンペリオンは、IFDに対

   し、本件配給契約書の添付資料のPower of Attorney(以下「委任状」という。)を作成・交付す

   る。

 

(ル) IFDは、本件映画に関するプリント及びその他のフィルムを破棄することができる。ただし、エ

   ンペリオンの負担で作成されたネガティブ等は除く。

 

(ヲ) IFDは、その裁量と選択により、Subdistributor(以下「第二次配給者」という。)に対し、本

   件配給契約上の地位を譲渡することができ、又は、本件配給契約上の権利を譲渡もしくは許諾するこ

   とができる。エンペリオン及びIFDは、本件配給契約に明示されている場合を除き、他方の当事者

   の事前の書面による同意なしには、本件配給契約上の権利を譲渡することはできない。

 

(ワ) エンペリオンは、IFDから、本件配給契約に基づく権利を証明、維持、有効化又は保護するため

   の必要かつ適切な文書を要求された場合、右要求を実施しなければならない。エンペリオンが右要求

   を実施しない場合には、IFDがエンペリオンの代理人として、右要求を実施する権利をエンペリオ

   ンからIFDに与えるものとする。

 

(カ) 本件配給契約又は関連契約の失効又は終了は、本件配給契約によってIFDに与えられた、又は与

   えることが合意された本件映画に関する権利、権原等に影響を与えない。エンペリオンのIFDに対

   する保証等は、本件配給契約の失効又は終了にかかわらず、有効に存続するものとする。

 

(ヨ) IFDが本件配給契約に違反したときのエンペリオンの権利及び救済は、損失の回復に限られ、エ

   ンペリオンは、本件配給契約を終了させる権利、本件映画のIFDの権利等を取り消す権利、又は本

   件映画の公開等を規制し、もしくは制限することを含むすべての権利又は救済を放棄する。また、I

   FDの本件映画に関する権利は、IFDが本件配給契約に基づくエンペリオンへの支払をしなくて

   も、終了、解除されることはなく、右不履行があった場合のエンペリオンの唯一の救済は、金銭上の

   損失の回復を求めるための法律上の措置である。