パラツィーナ事件(1)

任意組合を通じた租税回避事例を検討します。

 (一) 映画の制作

 

Columbia Pictures Industries,Inc.(以下「CPII」という。)は、〈1〉「CASUALTIES OF WAR」及び〈2〉「OLDGRINGO」と題する映画(以下、これらをまとめて「本件映画」という。)を制作しました。

   

(二) 映画の配給に係る資金の募集と株式会社パラツィーナの参加

 

 

 (1) Merrill Lynch Capital Markets(以下「メリルリンチ」という。)は、平成元年ころ「Empyrean

   Film Enterises」と題する説明書(以下「本件説明書」という。)を作成しました。その内容は、概

   ね次のとおりです。

  

(イ) 取引の概要

 

 日本の投資家を集めて「Empyrean Film Enterprises」と称する組合(以下「エンペリオン」という。)を結成し、出資組合員の自己資金及び在日銀行からの借入金により、The Genesis Project,Inc.(以下「ジェネシス」という。)から映画を購入し、International Film Distributors,B. V.(以下「IFD」という。)との間で映画の賃貸・配給契約を締結し、IFDが配給会社を使って全世界に配給しました。

 

 組合員の税引き後利益は、

 

〈1〉 映画興行の相対的成功度で決まる変動レンタル料の組合受領金額と、

〈2〉本事業の税処理とで決まる。

 

 IFDは、映画フィルム賃貸・配給契約の内容に基づき、エンペリオンに対し、経費充当分としてある一定の金額を支払い、さらに、

 

〈イ〉 全世界からの映画の総収入の10パーセント(これを「変動レンタル料」という。)及び

〈ロ〉 映画フイルムの興行収入から興行に要した費用及び〈イ〉の金額を差し引いた額(これを「調整レン

   タル料」という。)の合計額を支払う。また、IFDは、右〈ロ〉に関して、7年間の組合への支払

   累計金額が別途定めた金額(最低保証額)に満たないときには、この最低保証額と既に支払われた合

   計調整レンタル料との差額を保証しました。

 

 賃貸・配給契約には、IFDが7年後にエンペリオンから当該映画フィルムを買い取る権利を有し、IFDが買い取らない場合にはエンペリオンが再び映画フィルムを賃貸する権利を有する、という内容が含まれました。

 

 ML FilmEntertainmet International Inc.(以下「エム・エル・フィルム」という。)がエンペリオンの業務執行者として運営に当たりました。

 

 本案件の実行日は、平成元年5月19日を予定していました。

 

 

(ロ) 取引の内容

 

 映画フィルムの必要総費用は7,341万1,000USドルであり、購入費用の約75パーセントは償還期間7年間の借入金で賄い、購入費用の約25パーセントは組合員の出資金から充当します。

  

(ハ) 投資収益

 

 投資家が投資によって得る利益は、IFDから受け取る現金と組合員の税務処理から生まれます。

 エンペリオンがIFDから受け取る収入は、変動レンタル料として映画総収入の10パーセント相当額のほか、調整レンタル料等があります。

 投資収益を構成する2番目の要素は、映画投資に関する日本の税法に起因するものですが、課税上の優遇措置が将来組合員になる者に適用されるとは断定できませんし、日本の税務当局が課税上の優遇措置を認めるとの保証もありません。

 

 

 

(2)  株式会社パラツィーナは、本件説明書に基づく説明を受け、主として本件映画の減価償却等の経費処

  理による法人税の負担軽減の利益を得るため、エンペリオンに参加することを決定し、1億3,795

  万円を支出したのです。