民法903条1項の定める相続人に対する贈与(2)

 先日の事案の論点は、Y1は亡Aの相続人であるところ、相続人に対する生前贈与で民法903条1項の特別受益に当たるものについては、民法1044条が903条を準用することから、民法1030条の制約が及ばず、相続開始の一年以上前に遺留分権利者を害することを知らずにされたものであっても、遺留分減殺の対象になるのか、という点です。

 

 民法1044条が903条を準用することから、相続人に対する生前贈与は、民法1030条の定める要件を満たさないものであっても、すべて遺留分算定の基礎となる財産に加えられる、ということについてはほぼ異論がありません。

 

一方、相続人に対する生前贈与で遺留分算定の基礎に算入されるものは当然に減殺の対象となるとする、という説と、相続人に対する生前贈与で遺留分算定の基礎に算入されるものであっても、民法1030条の定める限度においてしか遺留分減殺の対象にならないという説があります。

 

 

 民法は、相続人のうち生前贈与・遺贈を受けた者とそうでない者がある場合には、両者間の公平を図るため、まず民法903条の規定によって、生前贈与・遺贈を受けていない者が残余の遺産からより多くの取り分を確保することができるようにすることによって、相続人間の実質的公平を図り、民法903条によっても遺留分額を確保することができなかった遺留分権利者がいる場合に、遺留分減殺の制度によって、受贈者・受遺者に対して生前贈与・遺贈の一部を遺留分権利者に返還させることとしたものと考えらます。

 

 現実に問題となる生前贈与は、被相続人が老齢期に入ってからの実質的な遺産分けであるものが多く、このような生前贈与は相続開始の1年以上前にされたものであっても、遺留分権利者に損害を加えることを知っていたことの立証を要さずに、減殺請求の対象になると考えるのが妥当とされます。